連鎖海殺人事件
ダズ・チューダー、ネイサン・ギズモ、チャールス・ワース(共著)
1900年代のイギリスで活躍した推理小説作家、ダズ・チューダーは、当時の英国では珍しく、仏教に傾倒していた知識人でした。彼は仏教の世界観の一つである輪廻転生を信じており、精神的な鍛錬を積んだ者は、来世にも記憶を持ち越すことができると常日ごろから主張していました。
肺結核にかかり、余命幾ばくもないと判明したダズは、死の床で推理小説を執筆します。彼はその小説を第一章のみで中断しました。「残りの章は、来世の私が書いてくれる」そう断言した後、世を去ったのです。
それから十数年後、ダズの生まれ変わりだと称する少年、ネイサン・ギズモがダズの財産管理人の前に現れ、続きを書きに来たと告げました。財産管理人は驚愕しました。転生者が小説の続きを書くというダズの言葉は、ごく少数の知人にしか伝えられていないものだったからです。
転生の真偽はともかく、ネイサンは小説の第二章を書き上げました。しかしその数年後、勃発した第一次世界大戦に身を投じたネイサンは、戦場で還らぬ人となってしまいました。
「次の転生者が第三章を書き上げる」との言伝を残して。
そうして数十年後。ネイサンの生まれ変わりを主張する紳士、チャールス・ワースが最終章を書き上げました。完成した作品が本書です。
基本的に複数の著者が物語を繋いだリレー・ミステリーは、内容やトリックの構成がちぐはぐなものになってしまいがちですが、本書に関してはそのような継ぎ接ぎ感が全く見受けられず、評論家達にも感心されています。「すくなくとも、ネイサン・ギズモ、チャールス・ワースがダズ・チューダーの作風を完璧に理解していることは間違いない」というのが後世の評価です。
最後の転生者、チャールス・ワースは現在も存命です。「次の転生者はおそらく現れないだろう」と彼は述べています。そもそも輪廻転生とは魂が俗界の欲から脱却できず生まれ変わりを繰り返す状態であり、その輪から離れることこそ仏教者の望みとなるからです。
「小説を記すという願いは適った。次は生まれ変わらず、仏となる道を選びたい」
チャールスはそのように話しています。
(このレビューは妄想に基づくものです)
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