妄想読書
妄想読書/シオタニケン
ハイ・サーンス荘の殺人
アンジェラ・キスカ、テッド・エイムズ、フランクリン・メイジャー、ドナルド・ハーン(共著)
西条稀彦(訳)
(ミュンヒハウゼン文庫)
複数の作家がストーリーを引き継いで執筆する、「リレーミステリー」という形式の推理小説があります。
序盤をAさん、中盤をBさん、解決編をCさん……というように、一つの小説の各章を別々の作家が書いて完成させるのです。
この種の作品としては、アガサ・クリスティーが中心となって執筆された「漂う提督」等が有名です。
この趣向を成功させるためには、作家同士の連携が不可欠です。自分の持ち味を殺さず、同時に前の執筆者が残した伏線を丁寧に拾い上げ、次の執筆者へとバトンタッチしてあげる……作家間の信頼がなかったら、成り立つものではありません。
ところがこの作品には、そういった信頼、連携が皆無。
前の伏線は完全に無視、次の執筆者が扱いに困るような描写をぶん投げまくり、あげくの果てに最後の締めを担当した作家はUFOや超能力といった読者が予想できるはずもない禁じ手を唐突に登場させて強引に話を締めくくるという惨状が繰り広げられます。
そうなったのも当然。執筆時、共著者四名の人間関係は最悪の状態だったのです。
騒動の中心はアンジェラとテッドでした。この二人、共に既婚者でしたが、執筆の半年前まで不倫関係にありました。この事実が週刊誌に掲載されたため、双方の家庭間で訴訟沙汰が持ち上がりました。当初、テッドは妻と別れてアンジェラと再婚すると公言しましたが、その場合、アンジェラの夫から多額の慰謝料を請求される可能性があると聞いて怖気づき、彼女との関係を清算してしまいました。裏切られたアンジェラは、テッドの家に押しかけて、十二時間にも渡って彼を罵り続けたそうです。
ちなみに不倫の経緯を週刊誌にリークしたのがフランクリン。
アンジェラとテッドをパーティで引き合わせたのがドナルドでした。ドナルドは上記のいざこざを承知の上で、本作の企画を強引に推し進めたと伝わっています。自身も含めた醜聞の登場人物たちに執筆させることで、話題性を得て一山あてようと企んでいたようです。
そのため本作では、自分以外の執筆者に対するあてこすり、非難、罵詈雑言が各所に散りばめられています。上記の経緯を知った上で読み進めるなら悪趣味な愉しみを得られることでしょう。
ミステリ史上、最も出来栄えの悪いリレー小説として参考にすることもできる珍品です。
(このレビューはすべて妄想に基づいたものです)
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