FileNo.8 プリディクション - 13
● ● ●
大井さんの通う高校は、あたしの学び
壁は真っ白で、淡緑色の廊下は綺麗に
そしてそれは、大井さんに案内されてやってきた手芸部の部室も同様だった。
軽やかに動くスライド式の
「――OK。まぁデブはデブなりに頑張って来てくれ。それなりに期待してるぜ」
部室の中へと急いで入っていく大井さんの背中を見ながら、先生はあたしの肩を借りつつ、手にしたスマートフォンへ実に
確かに言葉自体は暴言・悪口の類に違いない。けれどそこには丁度、親しい友人に軽口を叩いているに近しい
何というか。
悔しい。
「どなたですか?」
通話を切り、顔の筋肉をヒクヒクさせる先生が電話を白衣のポケットに戻すのを見ながら――きっとそれだけの
「男の人の声でしたね。先生に男の人は似合わないと思うんですけど」
「なに言ってんだ栄絵。服じゃねーんだから、似合うも似合わないもクソもねーだろ。あと今のは上司だ」
上司。
あたしたち学生には存在しない概念だ。上司と言えば、大体無茶苦茶なことを部下に言って、部下を追い詰めたり困らせたりする人……というイメージが、各種テレビドラマなどの影響により、あたしの中で
「本当に上司なんですかぁ? それにしては妙に仲良さげでしたし。あ、もしかして『デーブ』って名前の人だったりします?」
「デーブっておい……ちょっと面白いな」
「真面目に答えてください」
「
あたしは胸中で舌打ちをした。大井さんは極々真面目な表情で――というより
「おう、ありがとな遥。それとあんまりビビるな。あたしは今こんなだが、ちょっち落ち着けば何とか動けるようになるし、何より今、うちの上司とも連絡がついた。色々あってボスもこの街に来るみてーでな。解呪条件が多少難しかろうと、ボスなら百パー何とか出来る」
……なにその信頼関係。
「は、はい。ありがとうございます」
大井さんは深々と頭を下げる。よっぽど怖いらしいけど、今は……ん? いやちょっと待って、あたし。
大井さんは何かに操られてて不安で一杯なわけで。
先生は先生でバトル漫画も青ざめるような
あたし。
強引についてきた身分のくせに、なに
「――栄絵。栄絵? おーい、栄絵さーん?」
「……あっ、は、はい!」
我に返ったあたしへ先生は
「いいんですか、あんな硬い椅子で!? 必要ならあたしが椅子になりますけど!?」
「ご、ごめんなさい硬い椅子しかなくて!」
「いや学校ならそんなもんだろ。っつうか栄絵も落ち着け。……まぁ落ち着かない気持ちも分からんでもないけどな」
「分かるんですか!?」
「ああ。アレ見りゃある程度は、な」
アレ――先生がそう表現し、
形状としては、厚さ二十ミリ程度の薄い
……ああ、だから、なのだろうか。結局のところ何をどうしていいか分からないから、あたしはこの扇形の木版に奇妙な感覚を抱いているのかもしれない。それは――何とか無理くり表現すると――見ているだけで不安になるような、触れるだけで『何かが付着するのでは』と思わせるような、心を
「あ、あのっ。やっぱりこれに何か――」
「ああ、ハッキリ言っちまうけど、何か術が施されてる」
先生が部室の中へ踏み出し、あたしは
「……ただ、明らかにヤバい類の術……ってわけじゃあ無えみたいだ。少し時間をくれ。どうもかなり特殊な術らしい。ゲテモノの匂いがする」
「ゲテモノ、ですか?」
「ああ。さっき駅前で
真剣な横顔で――しかしあたしたち素人にはよく分からない表現で説明してから、先生はウィジャ盤の鑑定を始めた。木版の文字を
「東さん」
「あ、うん、なに!? どうしたの大井さん!?」
また状況を忘れて先生に
「あのね、聞きたいことがあって……東さんもあのウィジャ盤、何か変だって思ったんだよね?」
「え?」
あたしは
「えー……っと。その。い、言われてみればそうかも? って感じ? だったかな……」
「そうなんだ……じゃあどっちなのかな……」
――ん? 何を言っているのだろう。
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