FileNo.8 プリディクション - 09
仮に、
有り得ない、とは言い切れない。世界は広く、そして晶穂は高々二十数年生きているだけの小娘に過ぎない。自身の想像を超える存在など、世の中には幾らでも居るだろう。だがそれにしても――。
「――せんせい。先生!」
ふと気づいた時、眼前でひらひらと栄絵が手を振っていた。どうも思索に
「バス?」
「もー、もしかして立ったまま寝てました? 大井さんの高校、バスだと五分くらいで、歩くと十五分くらいだって、いま」
「あー……」
改めて見回してみると、確かに、改札を出たすぐ前方にはバスロータリーがある。ぐるりと上弦の月を
「遥はいつもどうやって登下校してるんだ? バスか?」
「わたしですか? わたしはいつも歩いてます。バスは混んでますし……」
考えるようにそう言って、遥は定期入れを茶色の肩掛け鞄へ突っ込んだ。そして――。
「栄絵!」
「あっ、は、はい!」
「えっ、どうしました!?」
突然自身の手を掴んだ栄絵に目を白黒させる遥だが、その手にはまた筆箱が握られている。やはり自覚は無いらしい。晶穂は遥の肩に手を置き、「いいか遥、右手をよく見てみろ」と言おうとした。
その時。
匂いがした。
それは、眼前の少女から。
――ああ成る程。普段は隠れてやがるのか。人を操る時だけ――。
そこで晶穂の思考は一瞬途切れた。直後。
「栄絵ッ!!」
「えっ、はい!?」
「目を閉じろ!! あたしが良いって言うまで絶対に開けるな!!!!」
怒鳴り、彼女は弾かれるように背後を振り向く。距離にして約五十メートル。駅前の交差点の一つ、青信号に従って横断歩道を進む人々の中央――そこに。
『彼女』は立っていた。
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