第106話 影の終焉

ミリアは階段を駆け上がる。後ろは振り向かない。もし、振り向いてしまえば戻ってしまうから。涙を拭い階段を駆け上がると廃れた家に出る。壁に無数の穴などが空いており、そこから外が見えるが人の気配はない。


(こままでくれば大丈夫。 私はエムニアお姉様を信じて進むだけ)


そう思うとミリアは最後に地下へ続く階段を少しばかり見つめ、歩みを進め始める。まずは、この廃れた家から出るために玄関の扉に手をかけ開ける。そこにはこの家程ではないが、廃れている家や貴族が住んでいてもおかしくないような家が並んでいた。


「確かジンお兄様はいつもこっちに行っていた筈……」


「逃げ道としてはよく考えているな」


ミリア不意にかけられた声の方向を咄嗟に向くとそこにはあの地下で出会ったジンやサインズに何かをした張本人のゼフが出てきた家の壁にもたれて座っていた。


「ど、どうして⁉︎」


「どうしてか…… 少し考えればわかるんじゃないか? あんなに複雑な地下を進むよりは地上を進むほうが幾分かマシだと言うことに」


「そういうことですね…… 私も殺すのですか?」


「そうしたいが、お前の神眼が欲しいからな。 まあ、人間が1人増えるだけだから問題ない」


「それでしたら、私は今ここで自害します!」


「勝手にしろ、できるならな」


ミリアは腰の短剣を取り出し、自分の首に向ける。しかし、手が震えてそこから先に進まない。恐怖に打ち勝とうとするが、こんな状況ですら生きることを望んでいるのだ。


「人間というのは生に執着する。 いや、人間に限った話ではない。 生きている者は生きていることの方が苦に感じない限り自分で命を絶つことはできないからな」


「はあ、はあ…… 私は…… 私には!」


ミリアはそう言うと、持っている短剣を落とし膝をつく。


「安心しろ、悪いようにはしない。 だが、パラサイトの弱点というのもわかった。 あの男には感謝しないとな」


「エムニアお姉様は殺したのですか……?」


「おそらく死んでいるだろうな。 デスGはかなり凶暴だからな」


それを聞くとミリアは崩れるように泣き始める。今まで普通だったことが、たったの数日で変わってしまった。もう皆んなに会えないのである。自分達も人を沢山殺してきたが、自分の兄弟にはやはり情が湧いてしまう。


「さて、宿に戻ろうと思うが、裏切る可能性も考えて恐怖は必要だろ?」


「え……?」


ゼフはそう言うと腰の操蟲が伸びてきてミリアを貫く。あたりに血が散るが、そんなことを御構い無しに牙から死体を抜くと、近くに待機していた蘇生蟲とサンを呼び寄せて蘇生させる。生き返ると考える時間を与えずに殺す。これをゼフは何十回も繰り返したのだった。



✳︎✳︎✳︎



「入りたまえ」


ノックをしたジンはそう言われると扉を開け入る。隣には弟であるサインズが付き添っていたので、椅子に座っているクライエルは少し驚く。


「久しぶりだなクライエル」


「そうだな確か2日か? まあ、そんなことはどうでもいい。 ここに来たってことはそういうことなんだろ?」


「俺は金をもらいに来ただけだ」


それを聞いたクライエルは依頼が完了したことを確信し、笑みがこぼれる。


「その後ろのやつは誰だ?」


「こいつは俺の弟だ。 名前はサインズという」


「はじめましてっしょ」


「そうかそうか、確かに今回は金貨の量が多いから2人で来たんだな。 いや、それにしてもお前以外のメンバーの顔は初めて見た」


「まあな、普通は顔をバラすのは最小限に留めるのだが、今回は別にそうしなくてもいいからな」


「どう言うことだ?」


「兄ちゃんこいつバカっしょ」


「みたいだな」


クライエルはその言葉に最初は怒りを覚えるが、少しずつ理解する。おそらくこいつらは自分を殺しにきたのだと。


「まさか…… ゼフに金で雇われたのか? いくらだ! 10万と言わずにその倍出そう!」


「残念だがクライエル、俺達は金で動いていない。 理由は話していいらしいから話してやる。 だが、その前に言っておきたいことがある。 よくも俺達にあんな化け物を殺させようとしたな」


「お前達は一体何を言って……」


「結論から言うが、俺達は負けた。 そして、ある蟲を埋め込まれた。 それはパラサイトと言って俺達の脳を支配するらしい。 だから、今はゼフを殺そうとは微塵も思っていない」


「だから、どうしたのというのだ!」


「まだ、話は途中っしょ。 最後まで聞いた方が賢明な判断だぜ」


それを聞いたクライエルは身の危険を感じ黙る。


「話の続きをしよう。 ここに来た理由だが、ゼフにお前を殺すように命令された」


「なっ⁉︎」


「そして、お前を殺すのにもってこいの蟲が爆発蟲という。 こいつは正の感情を溜め込むことによって爆発する蟲だ」


ジンがそう言うとカチッという音が響く。


「なんだ! 今の音は!」


「1つ言ってなかったが、この条件を知らない者に話しても爆発する手はずになっている」


「なんだと⁉︎」


クライエルは急いで部屋から飛び出す。しかし、時すでに遅くジンがまばゆい光に包まれ、爆発する。その爆発は屋敷を1つ包み込み大きなクレーターを残す。こうしてクライエルは呆気ない最期を迎えたのだった。

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