第93話 欲にまみれた

ゼフは受付に腕輪を渡すと、稼いだ金貨を受け取る。すると、クライエルがニタニタと笑いを向けながらこちらに近づいてきた。


「おめでとう、初めてにしては稼げたんじゃないのか?」


「そうだな、まさかこれほど稼げるとは思わなかった」


「それは良かった。 それで、奴隷が死んでしまったけど、わかってるよな?」


「なんのことだ?」


「とぼけないでいい、君は賭けに負けたんだ。 つまり、今日から私の奴隷だ。 ということは明日の試合も無くなってしまうな。 それだけで残念でならないよ」


そんなことを言うクライエルを見て、つい笑い声が漏れてしまう。


「何がそんなにおかしい?」


「ククク、何を言いだすかと思えば俺を奴隷だと? サンは死んでいないのにどうしてそんなことを言うんだ?」


「負け犬の最期の足掻きはやめたまえ。 私はこの目でしっかりと君の奴隷が死んでいるのを確認した」


「だったら、ここに呼べば分かるんじゃないか?」


「そこまで言うなら、いいだろう。 確か今は奴隷達は怪我を治療してる時間のはずだ。 奴の奴隷を治療を中断させても、全て連れてこい。 これは私の命だと医療担当に伝えろ」


クライエルは受付のアナを怒鳴るように命令する。


「かしこまりました、すぐにお伝えさせてもらいます」


アナは魔道具を使い、焦りながらメッセージで伝える。


「さて、これでどうなるか楽しみだ。 まずは、君を拷問にかけて心を壊そう。 果てしなく無限とも思える時間をね。 次に君にはこの賭博場で命を賭けて戦ってもらおう。 恐らく君の肉体はすぐに崩壊するだろう」


「少し静かにしていろ。 すぐに結果はわかる」


「ああ、いいだろう」


しばらく、無言の時間が続く。クライエルのニヤついた顔がチラつくが、我慢する。そして、ゆっくりとイチが姿を見せた。


「ご主人様お待たせっす」


「イチか、それでサンはどうした?」


「それが――」


「死んだんだろ、私は見ていたからな。 さあ、これで決まったな」


「な、何を言ってるんすか! サンは死んでないっすよ」


「何をバカなことを。 奴隷も主人に似るんだな。 それに、私に奴隷如きが意見するとはいい度胸だ」


すると、イチが出てきたところから小さな体が姿を見せる。それは体が小刻みに震えており、今にも泣き出しそうなサンだった。


「な、なんだと!」


「残念だったな、死んでなかったみたいだ」


「あ、ありえん! 私は自分の目で見た筈だ! 何故生きている!」


「所詮はお前の目は節穴だったようだ」


「な、なんだと!」


ゼフはクライエルが叫んでいるのを無視して扉に向かう。


「明日は約束通り、全試合出させてもらう。 行くぞイチ、サン」


ゼフはそう言うと扉をゆっくりと開け、出て行く。クライエルの表情には悔しそうな苦痛の顔が浮かび上がっていた。



✳︎✳︎✳︎



賭博場を出たゼフ達は冒険者組合に向かって歩き始める。奴隷達は治療をせずに出てきたためかキズが目立つ。特にサンの心の傷が。


「アザメロウ回復魔法を使って、イチとニの傷を癒せ」


ゼフがそう言うと、透明化の魔法で姿を消していたアザメロウが魔法を唱える。すると、イチとニの傷はみるみるうちに回復した。


「これで傷に関しては大丈夫だろう。 他に何かあるか?」


「あの、ご主人様。 今の回復もそうですけどどういうことっすか?」


ゼフはイチが聞きたいことを察し、口を開く。


「アザメロウが透明化の魔法で近くに待機しているから魔法は使えるからだ」


「えっ、透明化って……」


「安心しろ、透明化の魔法はかけられているものの意思でしか解くことはできんからな」


「あ、そうなんっすね」


イチは透明化の魔法が使えることの驚きよりも、冒険者組合でニとサンでゼフのことを話していたことを思い出し焦る。もしかすると、あの時も蟲が近くに待機していて聞かれていたのではないかと。


「サンに関しては昨日話した蘇生蟲、あいつが近くに常ににいた。ギリギリになったが、クライエルが見えないところで生き返らせた」


「つまり、1回死んだんっすね」


「まあ、そういうことになる」


ゼフがサンを見ると今にも心が壊れそうな表情をし、俯いている。


「サン、俺を憎んでいるか?」


「い…… いえ、憎んではおりません。 ただ、心の整理がついていないだけです」


「そうだろうな、死ぬのは初めてだろうからな。 だが、慣れればこれほどまでに強いことはない。 明日はお前に全部出てもらう」


「ご、ご主人様! いくらなんでもそれは無茶っすよ!」


イチがサンを気遣いその言葉に意見する。すると、空気が凍りつく感覚に襲われる。彼は勘違いしている。ゼフは優しいとかそういう訳ではない。単に暇を潰しているだけなのだから。ゼフがゆっくり口を開く。


「奴隷が意見するのか? そういや、ある男に殺して、蘇生させてを繰り返す拷問をしたことがあった。 お前もそうなりたいか?」


「い…… いえ、申し訳ありませんっす」


「わかればいい」


空気が溶けていくのを感じる。サンはそんな光景を見ながら、奴隷というのはやはり逆らえないというのを実感する。だが、呪いを解いてもらったという恩もあるので、もう少し頑張ろうと思った。冒険者組合に着くと、今日は新人が来なかったようだった。予想はしていたことなので、明日もやるように命令すると3人の奴隷を連れて今日はそのまま宿に向かうのだった。






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