第79話 力

ゼフはその斬撃に反応できないまま胴体を真っ二つにされて死んでしまう。だが、すぐに蘇生魔法が発動し元に戻る。それをこちらに振り向いて見ていた翔太は驚くが、すぐに剣を構える。


「俺が反応できなかっただと? 今まで力を隠していたのか? いや違う。 なんだあの力は……」


ゼフは初めて焦り始める。それは長い間観察して、翔太がこのような力を隠しているとは思えないからだった。


(一体いつだ? もし隠していたならなぜ今頃? 全く意味がわからない)


ゼフは翔太が見てもわかるほど焦っているように見える。



「さっきまでの余裕はどうした?」


ゼフが顔をあげると翔太の顔は悲しみと憎しみが混ざり合ったそんな表情をしているように感じる。


「その力はどこで手に入れた」


「答える義理はない」


「そうか……」


翔太の体は白く輝く電気のようなものに覆われているのが見て取れたので、何の力かは見当はつく。


(まずい、このままじゃ負けるな)


この力の正体は戦いのレベルを上げるためには必須であり、ゼフがなによりも手に入れたかった力の1つであった。


「お前はどうして戦う?」


「なんだと?」


「もう1度言う。 どうしてお前は戦う?」


ゼフはその問いに考えるまでもなく、即答する。


「楽しいからだ」


「どういう意味だ?」


「俺は俺以外の才能ある強者が憎い。 だが、自分よりも強い奴とは出来るだけ戦うのは避けたい。 結果として弱い奴と戦うことになる。 1つ疑問なんだが、どうしてお前らは他人を助けるために力を使う」


「そんなの当たり前だ。 自分よりも大切な存在だからだ」


「そうか、それじゃあどうして蟲は殺す?」


「それが人に害をなす存在だからだ」


「そうやって人間が正しいみたいな言い方をしてきた奴は何人も見てきた。 だがな、俺はお前ら人間を含む俺と俺が召喚した蟲以外は全て悪だ」


「確かにそうかもしれない。 だがな、殺す必要はなかっただろ」


ゼフは笑う。話をすることで準備をしており、それが今まさに完了しようという合図であった。


「仕方ないか…… もう少し後にやるつもりだったがこうなっては仕方ない」


「何を言っている?」


「リミッター解除だ。 ジェノサイド・ダークネス、相手してやれ」


そう呟くとジェノサイド・ダークネスは動き出す。それに伴いビートルウォリアもゆっくり動き始めていた。ゼフがそう呟いてから明らかにその2体の様子はおかしかった。


「何をした?」


「簡単なことだ。今まで封じてきた蟲達の本来の力を解放してやっただけだ。 これをした場合は俺と俺が召喚した蟲以外を目に入れば襲うだろうな」


「なん…… だと……」


「さっきのように俺を斬ってみろよ。 ここまで来れるならな」


「なめるなよ」


翔太はジェノサイド・ダークネスを見据える。力を得て尚、恐ろしい存在だと感じる。震えが逃げろと告げるようにやってくる。ジェノサイド・ダークネスにも白く輝く電気のようなものが見える。


「どうした来ないのか?」


(安い挑発だな。 だけど奴を殺したところでさっきみたいに生き返ってくる。 規格外の化け物とは奴のようなことを言うのかもな…… だが、何度もそれが可能な筈がない)


翔太は鞘に剣をしまい、さっきのように低い姿勢で構える。

そして、飛び出すと翔太はジェノサイド・ダークネスに斬りかかる。


(それにこいつを倒せば、奴だって正気じゃ居られない筈だ!)


その剣をジェノサイド・ダークネスは避けることも受けることもせず、ただ立っているだけだった。翔太はそれに驚きを隠せなかったが、そのまま斬りかかる。ジェノサイド・ダークネスと剣の刃が当たったことによってその衝突音が響く。


(まさか……そんなはずは……)


翔太が放った斬撃はジェノサイド・ダークネスに当たることに成功するが、無傷であった。そして、持っている剣はその1撃折れてしまっていた。


「決まったな、お前は一瞬でも俺を超えて御満悦だったみたいだが、その時に決めるべきだったな」


「いや、まだだ!」


翔太は剣を捨て、拳を構える。


「剣を捨てて別の戦闘スタイルにするか。 発想は悪くない。 だが、それはお前が剣以外を使えた場合だけどな」


翔太はその言葉は意を得てると感じる。だが、今まで剣しか使って来なかった翔太は拳で戦うことなどできない。しかし、それでも残っている真里亞を守りたいし殺された歩夢の仇を取りたかった。


「見てみろ」


ゼフが指差す方に警戒しながらも目をやると、そこにはビートルウォリアが生徒達を次々と殺して行ってるのが見えた。

翔太の心が軋んでいく。再び目の前を向くとジェノサイド・ダークネスが鎌を振りかぶっていた。


「ああああああああ!!! 腕が!」


「敵を目の前にしてよそ見をするとはいい度胸だな。 最初は焦ったが、大したことないな。 それにこの街はもう終わりだ」


「はぁ…… はぁ…… 右腕がなくたって戦える……」


「いや、もう終わっている」


ジェノサイド・ダークネスはもう1度鎌を振りかぶっており、その攻撃に翔太は気づかなかった。それを認識した時には既に遅く、ゆっくりと自分の体が縦に2つ分かれていく。


「こいつはお前が勝てるほど弱くはないからな。 さて、後は残りのやつを片付けるか」


ゼフは多少計画に支障をきたしたが、その顔はいつもよりご満悦だった。




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