第2話 待っていました、婚約破棄が叶う日を 2
「姉さま、このお洋服はどうするの?」
「姉さま、この靴はどうするの?」
二人の妹が、引っ越しの荷物をまとめる手伝いをしてくれる。
二人の妹は、まだ10歳。ソフィアが18歳。年の離れた可愛い妹たちである。
豊かな金髪が波打っていて、瞳はエメラルドグリーン。まさに宝石のような神々しいばかりの美しさがある双子の妹だ。
ソフィアは、瞳はブルーで、髪の毛は栗毛。父に似ている顔立ちだ。だが、妹は母にそっくりである。
かつて社交界に咲き誇る宝玉と言われた、ソフィアの母。
身分は伯爵家であり、気位が高いがそれもまた魅力的。理知的であって、虜にした貴族は多くいたという。それは伝説となって社交界に残っていた。
だがそんな母が選んだのが、身分が低い男爵の父。
見た目もそれほどよくなく、父にあったものと言えば、お金であった。
誰もが母を金銭で買ったと世間でいわれた父だが、母が父に惚れていたのだ。
その証拠に、今日も母と父は引っ越しのために使う荷台を二人で借りに母の実家に行っている。
ときどきソフィアも恥ずかしくなるほど、両親はとても仲がいい。
そう、父と母は大恋愛の末に結婚した。貴族の中では珍しく恋愛結婚した夫婦であった。
「「姉さま?」」
ぼんやりと父と母のことを考えていたら、双子の妹たちがソフィアを可愛らしい表情で眺めていた。
「キキ、ココ。なんて可愛らしいの!姉さま、あなた達を見ているだけでとっても幸せよ」
双子の妹たちの仕草は幼い。そのひとつひとつが可愛らしくて仕方がない。
今日着ている、キキとココのお洋服はソフィアが作ったものだ。
袖が膨らんだ形であり、ふわっとしたスカートが動くたびに揺れる。季節の小花が舞うドレス生地を選んで、可愛い妹たちのイメージに合わせてデザインして作った。
「姉さま、わたしたちお手伝いすることある?」
「そうね、ココ。荷物は大体片付いたから、お掃除をしなくてはならないわ」
ココは優しくておっとりした性格だ。反対にキキは、明るくて少しいたずらをしたがるお茶目な一面もある。
見た目はそっくりで、見分けがつかないほどであるが、姉であるソフィアには二人の違いはすぐ見て分る。
「ココ、姉さまに言われた通りに床をお掃除しよう?キキが水を運んでくる」
「ココも行くよ。まってキキ!」
二人はバタバタと走って部屋を出て行った。
普段は音を立てて走ることもない。貴族としての礼儀作法をしつけられているからだ。
だけれど、いつもはルールに厳しい母も留守にしているし、もうソフィアたち家族は貴族ではなくなった。人を気にして、何もできない人生からさようならだ。
世間は、大きな事業を失敗して負債をかかえた男爵家と思っている。だからこそ屋敷を売って、男爵家の爵位を売ることになったと。それはそうだ。
だが厳密に言うと、事業を畳んだが、負債はかかえていない。借金などないのだ。
ソフィアはそのあたりは詳しくはしらないが、叔父いわく借金はないし、屋敷も売る必要もないし、爵位も売る必要もない。これから家族が暮らしていけるくらいの財産はあると言っていた。
だが叔父は、資産を整理することをすすめてきた。
「二階の荷物は片付いたし、あとは一階にある荷物を分けて……。大きすぎる荷物は持っていっても入るかわからないから。家具も新しいものを買いましょう」
これから引っ越しするところは、屋敷とは比べものにならないくらいの小さな家である。
だが、家族5人で住むには十分な広さである。現在でも近くには叔父も住んでいて、叔父の家からお手伝いさんも数人来てくれるという。
叔父には何から何まで頼りっぱなしである。
ちなみに叔父に資産を整理してほしいと言われて、ソフィアは叔父が何かを企んでいるとは思わなかった。
なぜならば、叔父は父が大好きなのである。叔父は、父の実弟。
兄が大好き過ぎて、現在も独身の叔父。これからも誰とも結婚する必要性を感じていないらしい。
そして事業を指揮していたのは、叔父。実質叔父が一家の経済を支えていた。
だが、表向きに応対しているのは父である。昔から無能などとあることないこと言われ、根っからの善人である父が悪く言われることが、叔父には我慢ならなかった。
それは母も同じであった。限りなく叔父と母の気質は似ている。
そう、母も叔父も父が好きすぎて、ちょっと変なのである。
男爵の位も、祖父が事業を成功し、その功績と影響力から王国から賜ったものであった。もともと叔父も父も貴族の育ちというわけでもなかった。
だから貴族の身分にも未練はない。いらぬ騒ぎに巻き込まれ、疲弊した父をみた叔父たち。
貴族の地位を天秤にかけ、爵位などなくてよいのではと叔父は結論づけた。
そういう顛末(てんまつ)で、ソフィアたちは平民に戻ることになったのだ。
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