第7話 あらやだ! 何だかスイカの妖精みたいねぇ!

「うっわ……」


 朝っぱらから、ヨシエさんが最高に最悪な恰好でやって来た。


「みくちゃーん、おはよー」

「お、おはようございます……。あの、どうしたんですか、その恰好」


 頭のてっぺんからつま先を――見るまでもない。水着だ。水着姿のヨシエさんだ。お腹周りのたぷたぷが酷い。救いなのはヨシエさんが14センチしかないため、多少のアラは私の肉眼でとらえられない、という点だろうか。


 いや、そんなことよりも。

 どこで売ってんの? って首を傾げたくなるような、緑と黒の縦縞の水着である。スイカみたい。スイカみたいな腹しやがって。

 白い水泳帽に、水色の水中眼鏡、それから、たぶん水着と合わせたのだろう、緑色の浮き輪まで。


「あの、完全に泳ぐつもりで来てますよね」

「大丈夫よ、替えのパンツはあるから!」

「何が大丈夫なのかわかりません」


 アーッハッハッハ! と腹を抱えて笑っているところを見ると、パンツのくだりはヨシエジョークらしい。いや、ジョークでも困るわ。ちゃんと着替え持ってきてるんでしょうね。


「で? どこで泳ぐつもりですか? お風呂?」

「馬鹿ねぇ、みくちゃん。そんなところで泳いだら、あたし死んじゃうわよ? 洗面器か何かないの? ボウルでも良いわよ」

「ボウルとか駄目でしょ! 洗面器! 洗面器ありますから!」


 ババアが水遊びした後のボウルなんて使えるか!



「ほら、水の中でね? 歩くだけでも結構な運動になるって言うじゃない?」

「はぁ」

「膝にも負担がかからないっていうしね?」


 ざぶざぶと浮き輪を持ったまま、ヨシエさんは洗面器プールの中をぐるぐると歩いている。歩くだけなら浮き輪いらないんじゃないのって思ったけど、たまにバタ足もしたりするので、その時に使うらしい。

 一応、まだヨシエさんの中でダイエットブームは続いているようだ。


 が。


 その30分後。


「ばばんばばんばんばーん、はびばのんのーんっとぉ!」


 やっぱり水泳より温泉だわぁ、とか言い出して、ヨシエさんは湯を沸かせと要求してきたのだ。入浴剤はないのかと騒いでうるさかったので、賞味期限が切れた牛乳を入れてやったら、何だかきゃっきゃとはしゃぎだしたのである。


「若返っちゃうわねぇ~。ほらっ、お肌、すべっすべ~」


 真っ白いぬるま湯の中からふっとい足をにゅっと出し、これまたふっとい腕でさすさすと撫でる。


 本当に私は何を見せられているんだろう。

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