第九章 戦勝記念パーティー(3)毛虫にしちゃあ可愛いじゃん
戦勝記念パーティー会場が大きく揺れる。この分だと、揺れたのは会場だけではないだろう。ギデス大煌王国の宇宙要塞バル=ベリトが来たということは、政府機能ステーション・ビシュバリク全体が攻撃を受けているということだ。
ビシュバリク宙域に控えていたはずの艦隊はどうなったのだろう。
「毛虫ども、潰しても潰しても飽きもしねえなァ!」
会場を逃げまどう将官たちに入れ替わるように、ブラスターライフルを担いだ兵士が突入してくる。けれども、ブラスターライフルではヴァルクライの動きを止めることができない。
逆に、いたずらに犠牲を増やすばかりだ。
いや……、ヴァルクライが兵士たちをレクトリヴ能力で潰したときにまったく何も残らないせいで、兵士たちが恐怖心をいだきにくく、そのことがかえって兵士の犠牲者を増やしている節がある。
会場の中空に、ホログラム映像が浮かび上がる。それは、このビシュバリクと、それに近づいてくる宇宙要塞バル=ベリトだ。
もちろん、統合宇宙軍艦隊はバル=ベリトを迎え撃ってはいた。けれども、統合宇宙軍艦隊はバル=ベリトを落とすことができない。むしろ、バル=ベリトを護衛するギデス艦隊に返り討ちに遭って、次々に沈められていく。
ニウスは壇上で高笑いする。
『あーはっはっは! バル=ベリトがここまで早く時空跳躍できたのは、従来の跳躍よりも三倍効率が高いファータ・モルガナ跳躍の力! ……んアー? じゃあ今回の目玉はみっつか? みっつだナ』
宇宙要塞バル=ベリトは巨大なエネルギーの塊を撃ち出し、統合宇宙軍艦隊の真ん中にそれを飛ばした。
エネルギーの塊は、そこではじけ、広範囲にわたって赤黒い波動をまき散らした。
『漆黒の法』だ。
赤黒い波動を浴びた統合宇宙軍艦隊は瞬く間に光り輝く砂粒となって宇宙空間に染みこんで消えていった。
ニウス博士ひとりに手玉に取られているかのようだ。彼の開発した漆黒の法に艦隊を壊滅させられ、ヴァルクライによって高級将校がのきなみ消し去られた。
『では! もう一度ォ! “漆黒の法”ォ!!』
ニウス博士のかけ声に合わせるように、宇宙要塞バル=ベリトはまた、巨大なエネルギーの弾を撃ち出した。その目標は、政府機能ステーション・ビシュバリク。
ぼくたちのいる場所だ。
ヴァルクライとの戦いはなおも続いている。ぼくはレクトリヴ知覚の手を駆使してヴァルクライの周辺の空間を掴むと、爆縮する衝撃波で攻撃した。けれども、まだ足止めにしかならない。
「いいじゃんいいじゃんいいじゃんよォ! 毛虫にしちゃあ可愛いじゃんお前。俺に勝てると思ったの?」
ヴァルクライの意識がぼくのほうを向いた。続いてもう一撃、さらに一撃、衝撃波を食らわせたけれど、目を瞑らせるくらいの効果しかない。
ヴァルクライが近づいてくる。間合いが詰まったら真空の刃で攻撃をしようと構える。正直、それが通る自信は五分五分だ。
ふと、ヴァルクライの横手からブラスターガンの弾が撃ち込まれる。スズランだ。とはいっても、ブラスターの弾はやつに効かない。
「さあ、こっちだ黒ずくめ! あたしが相手してやる!」
ヴァルクライは、銃口を向けるスズランを驚いたような顔で見て、それから身体を大きく震わせ始める。
「なに? なに? お前それこいつを守ったの? 自分の身を挺して守ったつもり? なあ? なあ? それ羨ましいじゃん! 羨ましいじゃん!」
やつは完全にぼくを視界の外へやってしまい、スズランに向かってゆっくりと歩いて行った。
「お前さ、レクトリヴ使えないじゃん? お前こいつよりも弱いわけじゃん? なのにこいつ守るの? なにそれ? すげーじゃん。すげー……」
スズランはヴァルクライを撃ち続ける。しかし、まったく効果がない。距離が詰まってくる。スズランは後ずさる。
「すげーずるいじゃん! なあ、俺のことも守ってよ。命がけでさ。そういうの、俺もほしい! ほしいんだよ! なあ!」
意識が完全にスズランに集中したのがよかった。ぼくが衝撃波で攻撃すると、ヴァルクライは派手に吹っ飛んだ。はじめて、攻撃が通ったような感じがする。
倒れたヴァルクライに殺到して、ブラスターライフルで攻撃を浴びせる統合宇宙軍兵士たち。それも少しくらいは通ることを期待したけれど、ヴァルクライは立ち上がり、兵士のひとりを掴むと、他の兵士たちは消し去った。
「ひ、ひい……っ!」
悲鳴をあげる兵士に向かって、ヴァルクライは言う。
「お前でいいや、お前でいいからさ、俺のことを命をかけて守れよ。なあ? できるだろ? ああ?」
「は、はい、守ります……守りますから……命だけは……」
「はー、違うんだよなァ! そういうのは自分から言いだしてくれねえと!」
ヴァルクライは恐怖に打ち震える兵士をレクトリヴ能力で潰して消し去る。
「あーどいつもこいつも、毛虫どもは弱くて仕方がねえ! 俺が強すぎるから! 誰にも背中を預けられねえ! くそつまんねえ!」
そのとき、これまでのものよりも一等大きな揺れがビシュバリクを襲った。警報が鳴り響く。
頭上のホログラム映像では、政府機能ステーション・ビシュバリクはその半分近くを喪失していた。漆黒の法で消滅したというのか。
ぼくはヴァルクライがひとりで騒いでいる間に、スズランのいるところに駆け寄った。リッジバックもそこへ合流する。
艦内放送がビシュバリクの状況を伝える。
『未確認の攻撃により第二から第三十九ブロックを喪失。造船所、士官学校、喪失。大統領官邸、各庁舎、喪失……』
あまりの惨状だった。
「そんな、特務機関シータのある第十六ブロックが……。それに、大統領官邸も……」
「父上……!」
そうだ。スズランの父は統合宇宙政体大統領で、この戦勝記念パーティーの間は執務をしていると言っていた。もしそうなら、官邸の喪失とともに……。
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