第2話 悪役令嬢、婚約破棄系
夫のアルベルトの執務室で、休憩がてらに向かい合ってソファに座り、紅茶を飲みながら一息ついていると、不意にドアをノックする音がした。
「失礼します」
この声は執事長だ。「入れ」とアルベルトが言うと、ドアが開いた。
執事長は再度「失礼します」と言って入ってくると、私たちの傍までやって来てニッコリと微笑んだ。
手にした書類を見て、
「陛下。宰相殿より報告です。――思いのほか順調ですと」
それを聞いたアルベルトは「そうか」といい、私に微笑みかけてくれた。
「さすがはマーガレットだ」
ほめられてうれしいけれど、それよりも私を包み込んでくれるような優しい目に見つめられ、自然と心からの笑みが浮かんでしまう。
「皆さんが尽力してくれたお陰ですよ」
そう言いながら、アルベルトの笑顔を見つめかえした。
ノルマン王国の若き王アルベルト。
御歳24才にして、すでに人々から稀代の賢王との呼び名が広まりつつある。
艶やかな黒髪にすらっとしたお顔の、私の大好きな大好きな旦那様。
ああ、あの時はどん底に落とされたけれど、今はこうしてアルベルトと一緒。私はなんて幸せなんだろう。
その喜びをかみしめながら、あの学園卒業記念の舞踏会のことを思い出した。
◇◇◇◇
あの日、婚約者であった第2王子のフェルナンドは、いつまでたっても私を迎えに来てはくれなかった。
最近、とある男爵令嬢と仲睦まじくしていると噂され、事実、2人で行動することが多かったようで、私は幾度も苦言を呈していた。婚約者は自分なのだからと。
きっと来てくれるはず。きっと、もうちょっと待てば……。
舞踏会の前、そう信じて屋敷で待ち続けていたけれど、開始時間になってもあらわれない婚約者。
王国の宰相である父はとっくに母を連れ、生徒会役員である弟も準備のために先に会場に向かっており、私は1人だけだった。迎えが来るまで、フェルナンドを待ち続けているつもりだったけれど、とうとう執事長に強引に馬車に押し込まれ、会場に向かうことになった。
道中の馬車で、なぜ向かえに来てくれないの? なぜ? と、ただハンカチを握りしめることしかできなかった。
もしかして何かのアクシデントが起きているのかもと思ったけれど、会場につくや、案の定、何事も無く舞踏会は始まっており、私は無作法ながら、誰のエスコートも無しに1人で会場に入った。
すぐに、会場の中央でまるで主役のように踊る自分の婚約者フェルナンド様と男爵令嬢のラブの姿が目に入ってきた。
フェルナンドの美しい金髪が、会場の光を浴びていつもよりも美しく輝き、甘いマスクで愛おしげにダンスの相手を見つめている。
対するラブ男爵令嬢も、とうてい男爵家では用意ができないようなドレスと宝飾品を身につけており、珍しい黒髪にやや幼く見える顔を、恥ずかしげに頬を染めていた。
その仕草が男性の庇護欲を駆り立てるのだろう。とうてい私にはできない表情だ。
絶句してしまい、立ちすくんだ私の耳に、周囲の人々のひそひそ話の声が聞こえてきた。
――あらまぁ。今ごろ宰相殿の令嬢が、しかも1人で。
――相変わらず鋭い目で、殿下たちをにらみつけていますな。
――捨てられたのね。これからどうなるのかしら。
――あんな高慢な女より、あの愛らしい少女の方がふさわしいのでは。
思わず耳を塞いでその場から逃げたくなったが、私は公爵令嬢である。将来、第2王子の妻となるにあたって、もしもの場合に備えて、私にも王妃教育がなされていた。
その矜持が、ここから逃げ出すことを許さない。無様な姿をさらすことを許さない。
どれだけ心が悲しくて、張り裂けそうでも、この身体に染みついた所作に助けられ、私は背筋を伸ばしたまま毅然とダンススペースの
やがて踊り続ける2人を見つめる私の姿を見て、おもしろ半分におしゃべりする声が広がっていき、雰囲気が変わったことに気がついた殿下が途中でダンスをやめた。
困惑気味に楽団の演奏も止まり、踊っていた人たちは何が起きたのかと周囲を見回し、私に気がついて口を閉ざした。
婚約者である私を見て、殿下は忌々しげな顔になった。
そして、ダンスパートナーであるラブをしっかりと抱き寄せ、私に向かって歩いてきた。
私がカーテシーをとると、
「マーガレット。よくもこの場にのこのこと顔を出せたな」
と冷たい言葉を殿下からかけられた。
いったい何のことかわからず、
「殿下。ずっとお待ちしておりましたのに――」
「誰がお前を迎えになぞ行くものか!」
畳みかけられた強い言葉に、思わず身体がこわばる。
そんな私の視界の隅で、フェルナンドの向こうの人混みから、我が弟のセバスチャンと、騎士団長様の子息、その他の取り巻きの方々がやってくるのが見えた。
フェルナンドが私を見てせせら笑った。
「ちょうどよい。この場をかりて宣言しよう。――私、フェルナンド・ガーランドは、公爵令嬢マーガレット・リュミエールとの婚約を破棄し、異世界からの転生者でもある男爵令嬢ラブ・コレスタと婚約することを宣言する」
――――え?
頭の中が真っ白になって呆然としているうちに、フェルナンド様のお言葉が続いていく。
「マーガレット公爵令嬢は、父が宰相であることをいいことに、権力を持ってコレスタ令嬢に何度も強圧的な差別を行い、その持ち物を毀損させ、挙げ句の果てには無頼漢を雇って襲わせるという凶悪事件を引き起こした。
幸いに、その時に、私も居たからよかったものの、あのまま男爵令嬢が連れ去られていたら大変なことになっていた」
どういうこと? 私、そんな、無頼漢なんて知らない――。
「だが、お前の父は宰相として王国に奉仕し、また子息セバスチャンも私の側近の1人である。私も婚約者であったことから公爵家を没落させるのは忍びない。
よって公爵家への処罰は無しとする」
そんなことよりも、誰か、私の話を聞いて――。
つづいて弟のセバスが前に出てきた。
「ここにセバスチャン・リュミエールは、父の代理として姉マーガレット・リュミエールに宣告する。
本日、この時をもって汝をリュミエール家から追放する。今後は、リュミエール家の家名を名乗ってはならない――」
お願い、誰か、誰か、誰か。私を……、助けて――。
それからなにがどうなったのかわからない。気がついたら、私はドレス姿のままで暗い森の中をさまよい歩いていたのだった。
◇◇◇◇
あれからすぐに大きな狼が出てきて、必死で逃げたのよね。
で、結局、木の根っこにつまづいて転んだところを、上から押さえつけられて、背中の上で遠吠えされて……。仲間を呼んだのか。ここで殺されるのかと思ったら、やって来たのがアルベルトだった。
なんでも冒険者として活動していたそうで、あの大きな狼は、実は狼じゃなくて愛犬のゴロ丸だった。――今でもそのネーミングセンスには微妙な笑いを誘うときがあるけど。のしかかられて、もうこれで最後だと思った私の顔をペロペロなめて、よだれで、でろでろにしてくれたわけだ。
そんなこんなで助けられて、彼と一緒に冒険者登録をした。後から入ってきた情報では、私は公爵家からもガーランド王国からも追放されていたということだった。
アルベルトは私の家を知っていたらしくて、ただそれでも彼自身の正体はずっと教えてくれなかった。なんとなく貴族だとは思っていたけど……。
で、結局、
決定的だったのは、隣国のノルマン王国にダーク・ドラゴンの襲撃があった時で、青ざめた彼が私を置いて行こうとしたから無理矢理付いていった。
ドラゴンとの戦いで、私をかばって彼が大けがをし、そのアルベルトに私は必死で回復魔法をかけ続けた。その時、私もアルベルトもお互いに相手への気持ちに気がついたんだ。
ようやく目を開けたアルベルトが私を見て一言、「――結婚しよう」って言ってくれた。
それからアルベルトを探して、ノルマン王国の人たちがやってきて大騒ぎになって。……まあ、色々あったわけです。
もともと彼の兄が王太子だったんだけど、実は研究肌だった義兄さんは巧みに陰謀をめぐらして、まんまと王太子位をアルベルトに押しつけ、自分は大学の研究室に入っていった。
もともとドラゴン退治で名声を上げていたこともあって、アルベルトが国王となり、私が王妃となってしまうというあり得ない状況になったんだけど、かつての王妃教育がいかんなく発揮され、今日に至るというわけです。
新しい書類を手渡されたアルベルトが、さっそくその書類を読みはじめる。が、途端に眉をしかめ、にらむように続きを読みはじめた。
厄介な問題でもどこかで起きたのかもしれないわね。
少し気を引き締めて、彼が読み終わるのを待っていると、しばらくしてようやく彼が顔を上げて隣の執事長を見た。
「――いきなりか?」
「はい。いきなりでございます」
疑問に思った私は、
「ちょっと、私にも教えてよ。何かあったの?」
ところが、普段ならすぐに教えてくれるはずのアルベルトが口を開かずに私を見る。
その様子に不吉な予感を覚え、今度は強めの口調で尋ねた。
「おーしーえーて」
アルベルトが手紙をこっちに差し出して、
「ガーランド王国の特使が、私に会いたいと城に来た」
「は?」
私の故郷のガーランント王国から、下打ち合わせもなく直接? ……あきれた。
そういえば、冒険者生活が落ち着いてから、一度だけ両親に手紙を送ったことがあった。私自身、よく覚えていないうちに追放になったから、経緯も書いておいたのだけれど、届いた返事はわずか3文だけだった。
――お前などもうリュミエールの者ではない。どこぞで野たれ死のうと知ったことではない。2度と顔を見せるな。
それを見てショックを受けて、ひどく落ち込んだけれど、それももう昔のこと。今ガーランド王国からの特使と聞いて冷静で居られるのも、アルベルトのお陰ね。
「それにしても、一体なんの用かしら?」
非礼だと突っぱねて断ることもできるだろうけれど、なにやら厄介事の匂いを感じた私は、その特使と会ったほうがいいと進言し、アルベルトもそれを了承した。
◇◇◇◇
略礼装に身を包んだアルベルトの脇で控えている私の前にやって来たのは、懐かしい弟のセバスチャンだった。
我が国がつかんだ情報では、すでに父の補佐の1人として勤めているとか。
「アルベルト国王陛下におかせられましては、御機嫌うるわしくあらせられると推察申し上げます」
外交辞令に突っ込む気持ちはないけれど、そう思うならここに来るなよ、あんたが来ると機嫌が悪くなるんだからと思ったり。
ここからではアルベルトの表情は見えないけれど、肘かけを握る手に力がこもったから、かなり不機嫌になっている。
「それで今日はいかなる急用でまいられたのかな? 随分と急いでおられるようだが」
すると弟は、
「はい。実は我が国のログナルド王より急ぎの親書を託されまして、本日、このようにまかり越した次第であります」
といい、一通の書状を取り出した。
それを近衛騎士が受け取り、安全を確認してからアルベルトのもとへ持ってくる。
「すまぬが、ここで読ませてもらうぞ。楽にしていてくれ」
と弟に声を掛けたアルベルトは、さっそく書状の内容をあらためはじめた。それも私にも見えるような角度で書状を開いているので、一緒に読めと言うことだろう。
だが、その書状の内容に思わず目が点になりそうになった。
いわく――。
我が国は神より遣わされた異世界からの転生者を擁する、神の加護を受けたる国である。
これより大陸全土を平和に導くために統一戦争をおこなう用意をしているが、無用な血を流すことは我々も好まぬ。したがって、自ら我が国に臣従してくるならば、同盟国として遇し、統一の暁には貴公を大公に、貴国民を准1等国民とすることを約束しよう。
もし臣従しないのであれば武力をもって賊国として討伐し、貴公をはじめとする全ての国民を5等国民として、我が国に強制労働をもって奉仕させる。
よくよく考えられ、賢い選択をするよう求めるものである。
これはなんだ? というのが最初の感想だ。
アルベルトも心底、頭が痛そうな様子で、弟に問いかけた。
「特使殿は、この書状の内容をご存じかな?」
「はい。もちろんでございます。ここノルマン王国は豊かな国土を持っておりますれば、その国土を焦土にすることはあまりにも勿体ない。賢きアルベルト陛下におかせられましては、ぜひぜひ叡慮をもって決断を下されますよう。さもなければ、お隣のお美しい王妃も5等国民となってはもはや娼婦同然の身と――」
聞くに堪えない。私の祖国であるけれど……。この苛立ちを何と表現したら良いのだろう。
他国の王妃である私を娼婦同然の身におとしめるなどは――、そうだろうね。貴方たちなら、現実にそうするだろう。そして、それをこのノルマン以外の国々にも伝えているのだろう。
「もうよい。あいわかったぞ」
「おお! それでは」
アルベルトが私を見た。ものすごく怒ってる。当たり前か。
「うむ。我が国は貴国に宣戦布告をするものとする」
「ば、馬鹿な! 我が国は神に遣わされた転生者がいるのですぞ」
いやいや弟よ。あのような書状で、よくも臣従すると思ったね。だいたい純愛と書いてラブと読みますなんて言っていたあの女が、神の使いなどと悪い冗談だ。あの女にたぶらかされて、ますます愚かになったのでは。
「知ったことか! それに貴殿は我が王妃を見ても何も気が付かぬようだな。見覚えがないのか?」
「なんのことでしょう。どこかでお会いを……」
まだわかっていない弟に、微笑んで見せた。
「久し振りですね。セバスチャン。追放した姉の顔など今さら見たくもないのでしょう」
「なっ! まさか、生きていたのか!」
その弟の声とほぼ同時に、アルベルトの肘おきがピシリと音を立てた。
「私ももう貴方の顔など見たくありません。帰ってみなに伝えなさい。今から覚悟しておくようにと」
「ふ、ふふ。そうか。そうでしたか。逆恨みも良いところですが、まさかあの女を后にしているとは。それならば初めからこの国は賊国であったというわけですな。……とんだ無駄足であったものです」
「貴殿も特使ならば、最後まで特使らしく振る舞えばよいものを」
「まさか。かの犯罪者を妻とするような国に特使らしくもなにもないでしょう。……陛下。それでは失礼します。次は戦後にお会いすることを楽しみにしております」
「私も楽しみにしておこう。我が妻に冤罪をかけ追放した者どもに罰を与える時を。……だが1つだけ感謝しておるぞ。そなたたちが追放してくれたお陰で、妻と出会えたのだからな。故に、そなたがこの国を出るまでは、そなたの身の安全を保証してやるから、さっさと国元に帰るがよい」
「言われなくとも。では、失礼」
そう言うと、弟は最後に私を睨みつけてから、謁見の間を出て行った。
扉が閉まってからもしばらくは誰も何も言わない。気まずい沈黙がつづく。
耐えられなくなった私が、
「あ、あの。陛下?」
と顔を覗くと、
「今から謝っておくよ。マーガレット。君には悪いが、君の祖国を滅ぼさせてもらう。君の一族は、できれば温情をかけたいけれど……」
もういいや。ここにはアルフレッドと私の素の表情を知っている人たちばかりだから。
「かまわないわ。やっちゃって。あれだけ馬鹿にされて、私の我慢にも限度がある。それに、私の祖国はもうこの国です」
「――そうか」
「ただね。やるからには徹底的に。そして、処罰は公平に。かつて私を侮辱した冒険者にしたように私刑にしてはダメ。あなたは今や国王なんだから」
「当たり前だ! ――よし、やるぞ! 騎士団長! 戦時体制に移行だ。我が国の全力を持って彼の国を潰す。
宰相! ただちに他の国に特使を派遣せよ。同意する国とは軍事同盟を組め。よいな?」
「「はっ」」
どうやら、ガーランド王国のあまりにもな親書と、弟の非礼きわまる態度に、誰もがブチギレ寸前であったようだ。返事に気合いが入っているし、笑みというよりも
◇◇◇◇
とまあ、そんな具合で戦争になったんだけれど、我がノルマン王国は、アルベルト自らが軍を率い、他の同盟諸国の到着を待たずにガーランド王国に侵攻。
ガーランド王国は鉄砲という見たことがない兵器で応戦してきて、最初は苦戦したものの、すぐにその威力も射程距離も思ったほどではないことがわかり、長弓部隊により一掃、そして撃破。
やがてガーランド王国内のレジスタンスが接触してきて、私たちも支援した。反乱が起き、向こうの国内は滅茶苦茶になって、とうとう王城を落とし、国王以下の面々を生け捕りにしたとのこと。
しばらくは我が国が代官を派遣し、彼の国の元レジスタンス側で用意した次期国王候補の準備が整うまでの統治を代行することとなった。
それと同時に、戦後裁判を行うこととなり、諸国代表とともに王宮前の広場に、審議の場所が設けられた。
裁判官には我が国の最高裁判長が中心となり、各国が出してきた人々で判決を下すこととなる。
アルベルトと私が並んで出席していると、懐かしい祖国の人々が、末端の人から順番に引き出されてきた。これは罪の重いと思われる人を後にすることで証拠と証言をかため、逃げ場を与えないために考えられた方法だそうだ。
詳細は記したくはないから省略しよう。
まず引き出されてきたのは、かつて学園の同級生だった貴族たちだ。すでに私がアルベルトの妻であることは知れ渡っているようで、助けてくれと懇願する視線を送ってくるけれど、私はかつて自分がやられたように見て見ぬ振りをした。
次に出てきたのは騎士団長殿。
命じられれば戦わねばならない軍人ではあるけれど、騎士団が転生者を擁護、王子を擁護したことで、王国内の良識ある反対勢力に圧力を掛け、その結果、歪んだ思想が蔓延することになったとして、死刑の判決。さらに騎士団も解体となった。
その次は宰相であった私の父。
私をまっすぐに見て懇願してきたので、私は立ち上がり発言を求めた。
「私が父に、また皆さんに、申し上げるべき事は1つだけ。あくまで公平な処罰を願いますということだけです」
酷い拷問となれば、さすがに少しは申し添えて軽減を願おうとは思っていたけれど、宰相の地位にある父は止めるどころか戦争を助長し、弟もラブにのめり込んでどうにもならなくなっていて、申し開きができるような限界をとっくに突破していた。
判決は死刑。一族も私を除いて全員が貴族籍から抜かれ、さらに死刑から強制労働になるものまで分々に応じた処分が言い渡された。
そして、国王やかつての私の婚約者フェルナンド、そしてあの女が登場した。
最初から死刑は免れえないことはわかりきっているが、戦争に至るまでの国内状況も最悪で目も当てられなかった。
なにしろ、ラブが異世界の知識と称して様々な物の開発をフェルナンドにお願いするや、すぐにその開発をせよと命令が下り、さらに王国に元からあった流通やら税制にまで口を出したことによって商業が大混乱に陥った。
結局は賄賂が以前にも増して、まかり通るようになってしまったらしい。
とうとう王国が資金難となったために、重税が民衆に課せられるようになった。
今回の戦争だって、他国を侵略し、その他国を食いものにして自国を裕福にしようとしたのが発端だったようだ。
「おかしいわ! だってこの世界はあの大人気ゲーム、ラブ&ピースの世界なのよ。主人公の私がこんな目に遭うなんてことあるわけがない。バグってんのよ!
裁判長がラブに尋ねた。
「それは何のことだ? どういう意味かね?」
しかしラブはそれに答えず、
「だいたいフェルナンドだって、100年の平和の礎を築いた賢王として名前が残るはずでしょ? エンディングの通りなら。
それがなんで、こんな事になってんのよ。おかしい! ……そうだわ。あの女! 退場したはずのあの女が再登場してるのがエラーなのよ。追放されたんだから、おとなしく、どこかでくたばっていれば良いのに!」
フェルナンドはフェルナンドで、
「神に遣わされた異世界転生者は、この世界の導き手だ。どうせあの女が
などとトチ狂ったことを言っている。
どうにもならなくなったところで、裁判は結審。判決は全員が死刑となったのだった。
◇◇◇◇
裁判が終わって、国にもどる馬車の中で私はいつしか眠りこけてしまった。温かい手が髪を撫でる感触に、ふと目を開けると、アルベルトがあの優しい目で私を見下ろしていた。 ぬふふふふ。あ~、幸せ。
――――
次話、冒頭に寝取られあるので注意。
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