第2話

『だだいま、留守にしています。ご用件がある方は発信音のあと、ご用件をお話しください。』と、無機質な音声案内が聞こえた。いつ電話をかけても、まっちゃんはだいたい電話に出ない。今度、関西方面の出張で大阪に立ち寄ることがある。飲みにでも行こうと電話をしたのにやっぱり出なかった。しかし、本当のこと言うと、地元に帰る喜びは、まっちゃんに会うことが目的じゃない。高田敬子に会いたい思いが自分の中にある。

高校を卒業してすぐに地元を離れて、仙台の専門学校に入学した。卒業して就職もそのまま仙台の自動車メーカーに決まった。専門学校時代にから付き合っていた加奈子とは就職と同時に結婚したのはもう7年も前のことだ。高校時代は全くモテなかったし、もともと女性と話すことは得意じゃなかった。だから高校時代の女友達も、幼馴染のまっちゃんを通じて知り合った人が多い。高田敬子もその1人だ。そして彼女は俺の初恋だ。後にも先にも俺は加奈子しか女性を知らない。自分で言うのもなんだが、加奈子は美人で俺には勿体無い。付き合い始めた当時、専門学校のクラスメイトだけでなく、まっちゃんや高田敬子にもかなり冷やかされた。女性経験が一人しかいないということは最初は少しコンプレックスだったけど、2人の子供、加奈子と過ごす日々は幸せで、そんなコンプレックスは今ではどうでもよくなった。後悔はない。ただ、地元で過ごした高校生活のことを考えると、いつまで忘れられない恋心がまだ胸の奥にあることに気が付いてしまう。そんなことを考えていると、まっちゃんから電話がかかってきた。

「もしもし佐野?ごめん、何?」

「あー、ごめんごめん。来月のお盆に大阪に戻るねんけど、ちょっと飲まへん? 高田さんや向井とかみんな誘ってさ。」

「んー了解。とりあえず聞いてみよか。でもさすがに全員集まるのは無理ちゃうかなぁ。忙しいやろうし。」

「まぁ来れる人だけでもええやん。高田さんとか随分会ってないし。まっちゃん最近連絡してんの?」

「はぁ?そんなん、さすがに全くやで。」

「森下さんは?」

「うーん、全く知らん。」

「そうなんや。俺も日とか時間とかわかったらまた連絡するし。とりあえずみんなのお盆の予定聞いといてよ。」

「お前がみんなに聞いたらええやんか。」

「だって俺、連絡先しらんしさ。頼むわ。」

高田敬子にはもう7年会っていない。忘れられない初恋の相手に、いい歳をしてまた会いたいと思ってしまう。高校の時、彼女に思いは伝えなかった。彼女はまっちゃんが好きで、また、まっちゃんも高田敬子が好きだっただろう。恋愛経験がなくて鈍感な俺でも、それは見ていたら気が付いていた。いつも彼女のそばにはまっちゃんがいたこと。

彼女はさりげなく、まっちゃんにアピールしていたこと。二人はすぐに付き合うと思っていたのに、結果的にはそうはならなかった。


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