第23話 甘すぎる僕のお姉ちゃんからのプレゼント
その中で出た話題が、新しい部員の確保についてだった。
一応、形式上は僕が新しく加わったことで、すぐに廃部ということはなくなったらしい。
でも、二人で続けていって満足な活動報告が出来なければ、廃部の可能性もあると言われている。
つまり、まだまだ油断は出来ない状況に変化はない。
満足の行く活動をするためには、やっぱり人手が必要なのだ。
最低でも、先輩たちがいた四人くらいは確保したい。
僕と
だが、ここで僕に知り合いがいて声をかけることが出来れば早い話なのだけれど、そんな伝手が僕にあるはずもなかった。
なので、また一からのスタートなのだけれど、どうしてか僕はそれほど悲観的になっていなかった。
むしろ、やらなくてはいけないことができて、どこか身が引き締まるような感じがしている。
それだけでも、僕が人形演劇部に入部した理由はあったのだと思う。
……しまった。いつの間にか僕の話になっているではないか。
少し話が逸れてしまったので元に戻そう。
人形演劇部の今後の活動についてだ。
まず、
親子連れの人たちが来てくれるみたいで、結構人気の発表会だそうだ。
1年前に
慌てふためく
ちょっと見てみたい気持ちがあるにはあるが、当日はちゃんと後輩としての役割を果たすつもりだ。
とにかく、この人形演劇の発表会が、最初の目標となる。
「……よし」
そして、もうひとつ。
僕には個人的に、やっておかなくてはいけないことがある。
見慣れたマンションのドアの前。
姉さんが待つ、僕の家だった。
帰るときにマンションの部屋から明かりが漏れていたので、先に姉さんが帰ってきているのは確認済みだ。
自然と、胸の鼓動が早まってくる。
今日の姉さんの悲しそうな顔が蘇る。
「いや……大丈夫だ」
どんなことがあっても、ちゃんと姉さんとは話し合おう。
僕が
それをちゃんと、姉さんには伝えなきゃ。
僕は、覚悟を決めて、ドアを開けた。
「ただい……」
「
ピンクのエプロンをした姉さんが、リビングから全速力でこちらに向かって来た。
「あ~~~! ん~~~~!
「ぶふっ!!」
そして、盛大に両手を広げて、僕を力強く抱きしめた。
「あ~、もう! 遅いよ
嬉々とした声で、僕の顔を胸に押し付ける姉さん。
「ふえっ! ぬ、ぬえしゃん……!」
姉さんの奇行を止めたい僕だったけれど、圧迫されて声すら出ない。
でも、圧迫されてるのに柔らかい感触が幸福感を与えてくれる。
姉さんの胸は、もしかしたらとんでもない兵器なのかもしれない。
だけど、すっごく柔らかくて、ちょっと幸せな気分になるのは、決して僕がそういう変な気持ちになっていると言うことではないので、悪しからず。
しかし、このままでは話が進まないので、頑張って姉さんの凶器的な胸から離脱する。
「姉さんっ!」
「ん? どうしたの、
一歩分だけ、姉さんと距離をとって、彼女の姿を見る。
そこには、いつもの優しい笑みを浮かべる姉さんがいた。
「あのさ……今日のこと、怒ってないの?」
「ん? どうして?」
「いや、どうしてって……」
あのときの姉さんの表情は、確かに悲哀に満ちた顔だった。
それなのに、目の前にいる姉さんは、いつもの姉さんだった。
僕のことが大好きで、いっぱい甘やかしてくる姉さん。
「僕が生徒会に入らなかったこと、怒ってないの?」
すると、姉さんは少し驚いた表情を見せてから、僕に告げた。
「怒る? 私が?
一言ひとこと、確認するようにゆっくりと口にする姉さん。
そして、栗色の髪を少しかき分けながら、微笑んだ。
「私が
その表情は、家にいるときの甘い姉さんじゃなくて、とても綺麗で、大人な姉さんの顔だった。
また、僕の心臓が急激に脈を打つ。
ドクン、ドクン、と姉さんにも聞こえるんじゃないかと思うほどの鼓動だった。
「ううん、でも、怒るとは違うけれど、ちょっと悲しかったのは事実かな?」
姉さんは僕の頬を触りながら、僕に告げた。
「私はね、頑張っている
優しく僕の頬を撫でる姉さんの手は、ちょっとくすぐったくて、温かった。
「私は、これからも頑張る
無邪気に笑う姉さんは、年相応の無邪気な笑顔になっていた。
姉さんは、いつだって僕の味方だ。
それが、たまにプレッシャーになって僕に押し寄せてくるけれど。
今日は、とても頼もしいと思ってしまった。
「あっ!
「えっ? ちょ、ちょっと!」
姉さんは、僕の手を引っ張ってリビングまで連れて行った。
「……えっ?」
僕がリビングで見た光景。
それは、テーブル一面に並べられたパペット人形たちだった。
「じゃ~ん。
ブルースさんとは違う犬種の犬から、ネコ、羊、ロバ、牛やカエルまで、様々な種類の人形たちがざっと20体以上が置かれていた。
「ごめんね、今日取り寄せできたのがこれだけだったんだけど、あと数日したらもっといっぱい種類があるからね。でも、今の通販って凄いんだね。
普段ネット注文をしない姉さんは、昨今の運送業の発展ぶりに大いに関心を示していた。
「さぁ、
そういうと、姉さんはテーブルに置いてあった犬のパペットを自分の手に嵌めた。
『ボクは
姉さんは、とてもイキイキとした様子で、僕にそう告げたのだった。
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