【第45話:いつもより……】
ユイナは本当に即座に発動できるように、備えてくれていたのだろう。
オレが了承の言葉を返した直後、即座にオレの身体は光魔法の暖かい光に包まれた。
視界に映る鉄球の速度が、まるで水中で振るっているかのように、その速度を落としていく。
そして、全能感に支配される中、鉄球のわずかな軌道のズレを見切り、雨あられのように振るわれる猛攻を難なく躱しながら、ゆっくりとリビングアーマーに近づいて行った。
もう一歩で剣が届く位置にまで辿り着くと、迫る鉄球を頭を傾げて躱し、
「はぁっ!!」
無造作に魔剣を振り下ろした。
魔力同調をしていないので、魔剣本来の切れ味は発揮していないのだろうが、それでもほとんど抵抗なくリビングアーマーの鎧を斬り裂いて行く。
元々この魔剣は、切れ味だけは凄まじいものがあった。
魔剣自身の呪いのせいで、その切れ味も日の目を見る事は無かったのだろうが、今まで研ぎ直す事もしたことが無いし、木製の盾なら普段のオレでも斬り裂けるほどの切れ味だった。
その元々の切れ味に、ブーストであがったオレの能力が加わるのだから、鋼の鎧であろうと、抵抗らしい抵抗もなく斬り裂かれたところで驚くような事ではない。
しかし……モノを模倣して出現した魔物には、この程度の傷ではほとんどダメージを与えられない。
「やっぱり厄介だな……」
鎧を深く斬り裂かれたというのに、何事もなく鉄球を操り、オレの足元に鉄球を叩きつけてきた。
オレは軽く横に飛びのき、まずはこの鉄球を先に何とかしようと繋がる鎖に向けて魔剣を一閃したのだが……、
「なにっ!?」
鋼の鎧をほとんど抵抗なく斬り裂いた魔剣をもってしても、その鎖に傷一つ付ける事ができなかった。
「もしかして……模倣した鉄球が、魔剣のような特殊な武器だったのか? ユイナ!」
一言名前を呼ぶだけで、ユイナはオレの意図をわかってくれたようだ。
「うん! 間違いないよ。その鉄球はま、ま、魔球? 魔鉄球? あぁ~もう何て呼ぶのが正しいのかわからないけど、魔力を発するような武器だったみたい!」
魔剣や魔槍は聞いた事があるが、魔鉄球とか聞いた事もないぞ……。
「どこのどいつだ……そんな
いや、そんな事は今はどうでもいいのだが、思った以上に強敵のようだ。
オレは、魔剣の魔力同調をしつつ、縦横無尽に振るわれる鉄球を躱し、反撃の機会を待った。
「トリスくん! 一旦下がって!」
後方からのユイナの呼びかけに、鉄球を屈んで躱すと、即座に大きく後ろに飛びのいた。
「斬り裂き、舞い踊れ! 『水刃乱舞』!」
てっきり得意の光魔法で強力な攻撃を仕掛けてくるのかと思ったのだが、ユイナの放ったのは、他の属性で唯一使える水属性攻撃魔法だった。
無数に創り上げられた水の刃が、リビングアーマーを取り囲み、全方位から攻撃する。
これが普通の魔物なら、全身を切り刻む凄まじい攻撃となっただろう。
だが、その水の刃では、魔鉄球はおろか、鎧にもあまり効果的なダメージは与えられていないように見えた。
しかし、ユイナの魔法はこれだけでは無かった。
「凍え、凍てつけ! 『白銀世界』!」
どうやら、ユイナの本命はこちらだったようだ。
一定範囲内の気温を、凍てつくような寒さにまで下げる
本来ならちょっとした妨害や、暑い季節に重宝される程度の魔法なのだが、その効果は劇的だった。
無数の水の刃によって、全身に水滴を纏ったリビングアーマーの動きがみるみるうちに白い霜に覆われていく。
元々の動きでも、今のオレなら難なく躱す事は出来たが、それでも鈍くなってくれるのはありがたかった。
「良くやった! 後は任せろ!!」
しかし、ユイナの狙いは動きを封じる事では無かった。
「はぁぁっ!!」
裂帛の気合いと共に、魔力同調した魔剣を振り抜いたその時、
「なっ!?」
ガラスが割れるような甲高い破壊音を響かせ、魔鉄球も、鎖も、鎧も、その全てが粉微塵に砕け散ったのだ。
斬り裂くつもりで振り抜いた魔剣を、オレが不思議そうに眺めていると、
「へへへ~♪ 上手くいったみたいね!」
ユイナが少し得意げな笑みを浮かべながら近づいてきた。
「いったい何をしたんだ?」
「急激にものを冷やすと壊れやすくなるんだ。だからその状態でトリスくんの本気を出した魔剣で斬りかかったら、その破壊できるんじゃないかなぁって思ったんだけど、予想以上の効果だったよ」
「ん? どうして鉄を冷やしたらそんな事になるんだ?」
「ん~あのね……」
少し話を聞いてみると、ユイナのいた世界では結構当たり前の知識なのだそうだが、熱したものを一気に冷やすと壊れやすくなるのだそうだ。
他にももう少し細かく説明してくれたんだが、聞いた事のない言葉などが出てきてそれ以上はわからなかった。
また、ユイナ曰く、実際にはオレの魔力同調した魔剣の高次元のエネルギーが、それを可能にしたんではないかとか、色々語ってくれたのだが、正直ほとんど話についていけなかった。
「ふっふっふ。このユイナさんの知能にかかればこんなものです」
えっへんと可愛らしく威張っているが、
「とりあえずユイナは仮面を付けてると、気が大きくなるってのはわかった」
と言うと、みるみる顔を赤くさせていく。
しかし珍しく嬉しそうに語る今日のユイナは、ちょっと可笑しくて、ちょっと可愛くて、いつもよりちょっと魅力的に見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます