第141話 暁の策
「クロウリーさんとイヴちゃんは、僕たちを実際に見てるんだ。今この瞬間もね」
「えっ…………!?」
暁の言葉にふらんは視線を落としたまま驚いた声を出す。
そして、顔を下に向けたまま視線だけで周囲を見渡した。
今も、二人がどこかから自分たちを見ている。
暁のその言葉に、ふらんは草木の影を注意深く見やる。
しかし、方々を見回しても、人影すら見られない。
内心で首を傾げながら、ふらんは暁の方に視線を戻した。
「暁ちゃん……『見てる』って……二人はどこに?」
「『見てる』と言っても、直接見てるわけじゃないさ。二人は
「
「ああ、さっきから僕たちの周りを飛んでる
暁は視線を向けず、顎だけで
ふらんは暁の示す先のものを見て、合点がいった。
確かに、あれならば常に自分たちを
「ドローン……!」
ふらんの視線の先、監視と中継のために源内が準備した数十機のカメラ付きドローン。
常に林の中を飛び回り、自分たちを見張っているドローンならば正確な位置まで分かるだろう。
しかし…………。
「でっでも暁ちゃん……なんでドローンから見てるって…………」
「根拠はないよ。僕の予想。でも、確信を持てる理由はいくつかある。でも、今それを説明してる時間はない。だから、今は『信じてくれ』としか言えない。それでもいいかい?」
伺うようにこちらを見る暁に対し、直ぐ様ふらんは頷く。
長年、傍で暁のことを見続けてきたふらんが、暁を疑うわけがないのだ。
暁の方も、それを信頼しての問いかけであった。
「ありがとう。じゃあ続けるけど、二人はドローンを介して僕たちの位置だけじゃなく、動向までつぶさに見てる。その上で、二人は
「なんでわざわざ……」
「これも時間がないから詳しくは言えないけど、簡単に言えば『驕り』かな? まあ、大事なのは二人がドローンから僕たちの位置や動きといった情報を手に入れているってこと。それはつまり、二人は
「うん」
「視覚からの情報ってのは絶対だからね。何せ、見ている自分自身がその事実の証明者なんだから。だから、僕たちはそれを利用する。あっちが『見えている』ということを武器にするなら、僕らは『見られている』ってことを武器にする」
暁は自分たちの周りに飛んでいるドローンの数を確認する。
勿論、ドローンの先で見ているであろうクロウリーたちにバレないようにだ。
何故、暁がわざわざドローンの数を確認したかと言うと、先程も述べたようにクロウリーたちに十分な視覚情報を与えるためだ。
人は、自分の計算や考えを強固にするためにその根拠と成り得る情報を集めようとする。
根拠と成り得る情報があればあるほど、自分の計算や考えに自信と確信を持つことが出来る。
暁自身、十分な情報を集めて自分の考えに確信を持たせるタイプなのでそのことは重々承知していた。
そして、その確信を持たせるための情報が時には大きな落とし穴となることも……。
確認したところ、周りにあるドローンの数は四機。
クロウリーとイヴに確信を抱かせるには十分な数だと暁は判断した。
「さっき言ったふらんにやって欲しいことっていうのは、光学迷彩を発動して欲しいってことなんだ。僕の合図でね」
「光学迷彩を?」
ふらんの
「そうすれば、ドローンから僕たちを見ている二人は突然、ふらんの姿が消えたように見えるだろう。そうしたら、十中八九次のボールは僕の方に飛んでくる」
「えっ!? それって暁ちゃんが危ないんじゃ…………」
心配するふらんを、暁は視線で制する。
「大丈夫。どこに飛んでくるかは分かるから、僕は
「でも…………」
暁の言葉にも、ふらんはまだ不安な様子を見せる。
そんなふらんに対し、暁は苦笑いを浮かべた。
「ありがとうふらん。でも、本当に僕なら大丈夫だから。だから、ふらんにはふらんにしか出来ないことをして欲しい」
「…………うん……」
ふらんは、まだ納得した様子ではない。
しかし、ここまで暁に強くお願いをされれば、ふらんは素直に従うしかない。
その暁の『お願い』がきっかけとなって解決してきた物事が、枚挙に暇ないことをふらんはよく知っているからだ。
これはふらんに限らず、幼なじみでもある
暁もその好意を甘んじて受けつつ、頷いた。
「ふらんには光学迷彩を発動させてから、やって欲しいことが三つある」
「三つ…………」
ポツリと呟いたふらんは、手にしているボールに視線を向ける。
暁が、ふらんにやって欲しい三つのこと。
その一つが、その暁に手渡されたボールにあった。
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