魅力値突破の紅黒の魔女 ーTS転移させられた僕が大魔法使いになるまでー 第一部完 4000pvありがとうございます!!

岩野こま

第1話 転道1

「ぐっ……がはっ! 」


 一人の青年が首筋に走る激痛に苦しんでいた。首を横から刺されたため、声が出せず息を吸おうとしても痛みで上手くいかない。

 

(そうか、死ぬのか……)


 青年は、目の前の自分に致命傷を与えた男の顔を見ながら思う。


 こいつは何でこんなにも満ち足りた、それでいて憎しみにまみれた笑顔をしているんだ。

 こんな表情を人間が出来るなんて知らなかった、と。


 ーー首を刺されてから間もなく、そこで彼の19年の人生は終了した。




 もう少し遡ろう。彼の名は一条夏蓮いちじょうかれん


 夏蓮は17歳から19歳の現在まで部屋に引きこもったまま、風呂とトイレとネットショッピングの配達の受け取り以外、部屋から一切出ることは無かった。引きこもりというやつだ。


 何故、彼が引きこもりになったのか。その原因は自身の容姿を原因とするいじめ。


 彼の父は日本有数の商社の経営者であり、家はかなり裕福、それに両親は彼にとても甘かった。それに甘えて、現在は所謂クソニート生活を送っているのである。


 この日は日曜日だったが、ニートに曜日という概念はあまり意味がない。と言う訳で彼はいつもの通り部屋でネトゲを楽しんでいた。


 そのネトゲとは、日本で今最も人気のあるMMORPGであり、一日の大半を割く生活をしているのだ。


 彼にとってゲームの中の仮想世界はとても居心地がよかった。実際の容姿等関係なく、そこでは誰もが理想の自分として存在する事が出来たからだ。


 ただ、彼はゲーム内のギルドメンバーやフレンドには一つの嘘をついていた。

 

 自分はリアルでも女だと。


 ネカマとよばれるものだ。しかし、とある理由から、ゲーム内で彼に関わる人物達は、女であることを信じて疑っていなかった。


 その理由というのが、いじめの原因にもなった彼の容姿にある。

 その容姿というのは、男であるにも関わらず誰がどう見ても女性、それもかなりの美少女にしか見えないというものだった。

 家族や彼とか変わる人は皆同様にこう思う。


 美少女が男装している様だ。


 この見た目のせいで、学校では『オカマ野郎』とか、『男の娘』とか言われていじめられるようになり、これが不登校になったきっかけなのだ。


 そんなことで? 


 他人からはそう見えるかもしれない。最初は上述の様な軽い影口だった。しかし、不登校になる直前頃には、もう容姿とか関係の無い、単純な暴力を日常的に受けるようになっていた。一部の生徒からではあったが……。


 話が脱線したので戻そう。そんないじめのきっかけとなった『容姿』だが、彼自身は嫌っているわけではなかった。

 むしろ、それを利用してというか、趣味というか……、普段から女装してSNSにその写真をアップすることで『いいね』を得ることが、彼の生き甲斐みたいになっていた。


 ゲーム内の住人はこのSNSアカウントを知っており、夏蓮がそこで女であると謳っているため、そのまま女だと信じているのだ。

 ちなみにその中で彼は『姫』と言われていた。


(僕って本当にめちゃくちゃ可愛いわー)


 この様に自画自賛するのも仕方なく思えるほど夏蓮の容姿は美少女そのものだった。


 時計を見るともう朝の8時。

 夏蓮は徹夜明けの目を擦り、そろそろ一度ゲームから落ちて仮眠でも取ろうかと考えていると、一階から妹の明るい話し声が聞こえてくる。

 日曜日なので、所属する剣道部の試合でもあるのだろう。

 

 夏蓮の妹、亜理子ありすもまた容姿端麗で、高校では歴代最高の美少女とか言われいる。

 剣道部に所属し、昨年は高校一年生で全国大会を優勝した程の腕前の持ち主だ。

 但し、勉強は苦手で成績は鳴かず飛ばずなのだが。


 ちなみに夏蓮は妹に対して対抗意識を持っていた。


(歴代美少女か何か知らないが、僕の方が圧倒的に可愛い!)


 事実、夏蓮と亜理子の容姿を比べた場合、多くの人が夏蓮に軍配を挙げるだろう。


「行ってきまーすっ」


 亜理子が父と母に向けた元気な声を聞きながら夏蓮はパソコンをシャットダウンする。


 ここまでは彼にとって、いつも通りの日常だった。

 ーーここまでは。


「いやああああっ! 亜理子!! 」

「何をしているんだお前!! 」


 亜理子を見送っている筈の、母の悲鳴と父の怒鳴り声がほぼ同時に聞こえ、そして数秒間だけドタバタと物音が鳴り、その後静かになった。


 両親の異常な叫びを聞いて、夏蓮はただ事ではない何かを感じて部屋を飛び出る。そして階段を駆け下り、何かが起こったであろう玄関に走って向かう。


 しかし、そこで目に入ってきた凄惨な光景に、彼は愕然としたのだった。


「あ、あぁ……嘘だ……。ひっ、うわぁぁぁ!! 」


 恐怖の余り叫ぶ。


 何故なら、玄関を出たところで亜理子が、そして玄関では父と母が重なるように倒れていたからだ。三人とも身体の下に大量の赤黒い血溜まりを作りながら……。


「ああああああああああ!! 」


 自分でも何処から出しているのか分からない絶叫。


(なんでこんな! 一体だれが!)


 必死で何が起こったのかを理解しようとする夏蓮。

 しかしその思考も長くは続かなかった。何故なら突然自身の首筋に、経験した事が無い熱と痛みが走ったからだ。そこに突き立てられたナイフによって……。


 彼は背後の何者かに首を刺され、バタンと仰向けに倒れこむ。


 途切れていく意識の中、自分を見下ろす『この惨劇の犯人』の顔を見つめながら、一条夏蓮の命はここで尽きたのだった。

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