簡単に異世界で俺TUEE出来ると思った?

明日

転生

 『まともではない人間の相手をまともにすることはない』かつて伊達政宗はそう言った。その言葉を本を読んで知ったのかはたまたどこかのテレビ番組で見たのかそんな事はもう忘れてしまった。なのにその言葉を俺は忘れずにいる。

   

 『私こういう物何ですけど』

俺は名刺を差し出しながら玄関でビシッとした体勢でお辞儀をした。今俺が差し出している名刺、当然偽物だ。いっかいの高校生である俺がまともな職についている訳がない。

 『壺鑑定士の西田さんね。お若いのに実績もあるのね』

人の良さそに見え内に悪魔をひそめるおばあさんは名刺と俺が出したタブレットのページ、お客様の声を見せるとそんな事を言った。この西田という名前もちろん偽名であり、実際問題壺鑑定士何て物もあるかは知らない。では何故そんな事を語るのか、理由は二つある。

 『はい。では本題に入らせてもらいます。こちらの壺ですが陶芸家である山田大希さんの作った壺でして……』

これが一つ目だ。自然かつ大胆に壺を売る話が切り出せる点、もしただの高校生である俺が突然壺を売りにきたら不自然で仕方がない。なので名刺は自然に壺を売るために必要な最低条件だ。

 『これがそんなにすごい壺……何ですか?私には良く分かりません。まぁ鑑定士である西田さんが言うなら間違いは無いと思うんですが……』

そして二つ目、信頼だ。とりあえず一流のシェフが作った料理とかはよく分からない料理でも美味しく感じるものだ、それと同じ原理で壺鑑定士がすごいと言うならよく分からない壺でもすごく感じるはずだ。実際これは骨董屋で五千円ぐらいで売ってた安物の壺だがな。

 『奥さん最近悪い事が立て続けに起きてますね』

 『え?そうなんですよ!何でわかるんですか?』

 『さっき名刺を渡した時に手の平が見えてしまい、その際に悪い相が出ていましたので』

嘘だ。これは次なる獲物を探してこの辺りをリサーチした時に近所のおばさん達が話していたのだがここのおばあさんは免許を無くしたり、車を壁にこすったりしたらしい。早く免許返還してこい!

 『やはりそうでしたか。最近悪い事が立て続けに起きているので何かあるとは思っていたのでしたが、悪い相が……』

いや何もないよ!ただ単にあんたの不注意だよ!免許返還してこい!の三拍子が喉から出かけたが何とか飲み込んだ。

 『そこでこの壺!何とこの壺人を幸運にする作用もあり、買った人には給料が高くなったり、お孫さんが出来たりなどの実例があります』

 『孫ですか!?買います!あっ……でも高いんですよね?』

孫って言葉に敏感なのはリサーチ済み勢いでオーケーしてくれるとは思わなかったが、後は詐欺師のジョートークを言えば終わりだ。

 『本来六万円のとこを、不運な奥様のため五万円でいかがでしょうか?』

 『一万円も……買います!』

 『ありがとうございます!』

俺は高校生詐欺師である。このおばさんは会社のお金を横領していた過去を持っている。だからと言って詐欺をして良い理由にはならないが俺の自我が壊れないようにするための免罪符だ。悪人からお金を巻き上げるなら、善人からお金を巻き上げるよりいくらか気が楽だ。だが多少なり罪悪感は湧いたりする。だから俺は玄関の戸を開けながら最大級の笑顔で言ってやった。

 『これから良い事、あると良いですね』

おばさんははてなの文字を頭の上に乗っけながら首を斜めにしていた。

  

 『五千円が五万円になっちまう何て俺はどこぞの錬金術師かよ!』

俺の乾いた笑い声が帰ってきた地元の住宅街に響く。あぁー退屈だ。非日常と金を求めて始めた詐欺、最初の内は交渉術も甘々で何度かバレかけたり、中々物を売る事が出来なかった。だがその失敗から試行錯誤を繰り返す事が楽しくワクワク、ドギドキした。だが非日常もやり続ければ日常になる。俺は二ヶ月もしないうちに元値から十倍で売れるようになりまた退屈になった。しかし詐欺以上の稼ぎをまだ知らない俺は両親蒸発の影響もあり、この非日常ではなくなってしまった日常を生きている。

 ギュ〜〜

 『腹減ったしコンビニでも行くか』

俺はどこか吐き捨てるように言いここから一番近いコンビニに向け歩を進める。

 『異世界……ね』

俺はコンビニの隅に置かれた小さな漫画コーナーで足を止めた。俺は一つの本を手に取った。それは良くある主人公が異世界輸送車ことトラックに引かれ、神様に最強能力をもらい異世界生活を謳歌するというものだ。

 『異世界なら俺はワクワクやドキドキ出来るのかな?』

 『ありがとうございました〜』

 『買ってしまった……』

この手の作品は沢山読んできたが、何度同じジャンルの作品を読んでも高校二年生の俺には異世界という言葉が輝いていてついつい買ってしまう。俺がレジ袋に飯と共に入れられた本を手に取り横断歩道を渡っていると突然俺が歩く道が明るく照らされる。それが夜の道には明るすぎてその光源の先を目で追うと俺がいる方向に真っ直ぐにトラックが迫ってきていた。その時俺の五感が察した。もう死ぬ。

なぜだか死ぬって分かったのに自分でも分かるくらい口角が上がる。

 『来た……俺の非日常……』

そして俺は目閉じた。

 

 『10番!早く起きろ!』

俺は機械じみた怒鳴り声で目を開いた。辺りを見回すと小さな正方形の白い空間があり、その一面がスクリーンとなっていてそこから機械じみた声が聞こえているようだ。

 『どこだよ……?ここ』

俺の誰かに訴えかけるような声は俺以外、人っ子一人いない正方形の空間に響く。

 『うるさいなぁ。No.10。君って人との約束に遅刻しても平気でいるたちの奴でしょ!それにこの声は他のNo.1、No.2あーこれ言ってくのめんどくさいから君たち1から10をまとめてナンバーズっていうね。でこの声は他のナンバーズにも聞こえているから今後の為にあんま喋らない方がいいよ』

 『他の……って俺以外にも人がいるのか?』

 『No.10君ってほんと自分の世界で生きてそうだね』

やはり機械じみた声が心のない冷たい言葉と相まって俺の心に響く。

 『あーやっと黙った。それじゃ今から現状確認してくよ。君たち罪人は東京発異世界行きのトラックに轢かれて死にました』

 『『は?』』

その時にモニター上から機械じみた冷酷な声とは別の人のぬくもりを感じる声が聞こえてきた。その声は複数人のものであり男女問わず高目の声もあれば低目の声もあった。

 (今のが俺以外のナンバーズの声か?)

 『もう君たちうるさいな!僕は事実を言ってるだけだよ』

 『な訳あるかよ!もし本当死んでるって言ってるんだったら今の俺は何なんだよ!』

は?っと言った中の一人であろう男の低い声がスクリーンから聞こえてくる。

 『死んでると言ったがそれは人間の表現、神の表現で言うなら君たちは生と死の狭間、一つの世界での人生を遂げ、次の世界へ渡るための休憩地点に君たちはいる』

あたかも自分が神であるかのような口ぶりで機械じみた声は言った。

 『気に食わねーな。その言い方、まるでお前が神のような口ぶりじゃねーか』

 『君も良く喋るね。No.10』

あからさまにため息のようなものを吐きながら自称神は続けた。

 『そうだよ。僕は君たちを世界から世界へ送る神だ。だけど最近つまんないんだよね。今まで生きた世界での実績を元に社会の為に生きてきた人は優良な異世界へ、逆にニートや社会不適合者には辛い異世界へ。そんな一発逆転もないワクワクドキドキもしない。だから神である僕気付いちゃいました。転生する世界を賭けたゲームをさせれば良いじゃん。でも問題が一つ、神である僕らでも人の命を弄ぶ様な事は出来ない。ではどうしましょう、答えは簡単です。今までの世界でやらかした罪人たちでゲームをすればいいんだ』

自称神は初めて人間味帯びた声で子供が大発見をしたみたいに興奮しながら言った。

 『ざけんな!俺たちの命なんだと思ってだよ!』

声の低い男がスクリーン越しでも分かるぐらいの怒りで低い声を荒げている。

 『また君かよ。No.6。命をって君にだけは言われたくないよ』

再び戻った機械じみた声で自称神は冷酷なトーンで言った。すると先程まで声を荒げていたNo.6と呼ばれた男は押し黙ってしまった。ナンバーズ全員が黙ったのを確認すると自称神はそれにと続けた。

 『それにこれは君たちにとってはチャンスだよ!本来君たちみたいなロクでなしは辛い世界に飛ばされて前の世界よりも辛い人生が待っている。でも未来を賭けたゲームに勝てばそれこそ物語の主人公の様な人生が待っている』

鳥肌がたった。俺は自分でも不思議に思うくらいこの状況を楽しんでいる。いや本当は不思議なんかじゃない。ちゃんと理由も分かっている。だってこれは俺の追い求めていた非日常なのだから。

 

 

 

 

 

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る