魔力タンクと蔑まれた魔法使い、魔力で強くなる魔剣を拾う

嘘乃 真

第1話 魔剣

「おい、そんなやつ置いてけ! 脱出できなくなるぞ!」


 遠くで仲間たちの声が聞こえる。ただ、体が動かない。先ほどダンジョン内のトラップが発動した際に魔力を供給することに専念していたため、自分を守ることまで意識がいかなかった。


 結果、致命的なダメージを受け完全に動けなくなってしまった。




 世界でも五本の指に入る王国付き一流冒険者ギルド『クレスト』。そのダンジョン攻略に、オレは魔力供給役として参加していた。


 魔法がからっきし使えない代わりに無尽蔵に魔力を生成できるオレは、宝の持ち腐れと言われるがオンリーワンの存在であった。単体では何の役にも立たないが、サポート役としては難関ダンジョンの攻略には有用であり、クレストのような有名ギルドにも同伴することになったのだ。


 今回は辺境に新たに見つかったダンジョンの攻略であり、事前情報としてはかなりの深度で中にはとてつもない宝が眠っている可能性もありクレストが派遣されたのだ。


 そして確かにダンジョン攻略は熾烈をきわめた。一流であるクレストのメンバーをもってしても苦戦を強いられるレベルで、正直いって俺から無尽蔵に供給される魔力がなければ最深部までこれなかったと思う。


 それだっていうのに――


「宝ってのが、こんな錆びた剣一本かよ……」


 そう、オレとクレストの面々を愕然とさせたのは眠っていた宝だった。しかもここから撤退することを考えると、かなりの苦戦が予想される。そして最悪なことにダメージを受けたことによって、オレは上手く魔力を生成できなくなっていた。こうなってしまうと、もうただの足手まといにすぎない。


「悪いなフリッツ、恨むなよ」


 そう言い残し最後まで俺に付き添っていた仲間が離れていく。


 理解している。一人でも多く無事に脱出するためには足手まといは切り捨てなければならない。だけど……。


「ここで、終わりか……」


 思えばままならない人生だった。一流の剣士に憧れていたが、俺に与えられたのは魔法使いの適正だった。だけど魔法すらまともに使えず、出来損ないとして蔑まれ続けた。それでも魔力タンクという生き方を見つけ、一生懸命やってきたんだ。それなのに、


「こんなのって、ねぇよな……」


 最後には仲間に切り捨てられ、誰にも看取られることなく錆びた剣の前で一生を終える。神という存在がいるとしたら、なんで俺にこんな過酷な運命を与えたのだろうか。剣士になれなかったオレには、錆びた剣がお似合いってか?


「いいじゃねぇか」


 どうせ死ぬなら、最後くらいは剣士として戦ってやる。錆びた剣がお似合いってなら、それで戦ってやろう。


 地面をみっともなく這いながら、剣が奉られた台座へと近づく。っへ、錆びた剣なのにこんな仰々しいおかれ方しやがって。お前のせいだからな、こんな目にあってんのも。


 そしてオレは、剣の柄を掴んだ。すると――


『ふーん。アンタ、なかなかいい魔力をもってるわね』


 不思議な声が聞こえた。声からするに恐らく若い女の声だが、どこにそんな奴が。


『でも状況が最悪じゃない。それに魔力の奔流が尽きかけてる』


「誰、だ」


『アタシ? アタシはティルヴィング。アンタが握っているその剣よ』


「……魔剣?」


 おとぎ話できいたことがある。魂をもった剣のことを。その剣は確か魔剣を呼ばれていた。


『そういうヤツもいるけど、アタシはその呼び方キライよ』


 魔剣の声が不機嫌になる。呼び方一つで機嫌が変わるなんて、思ったよりも面白いやつだ。


「じゃあ、ティルならどうだ?」


『……ま、ニンゲンが考えたにしちゃ悪くないわね』


 どうやらお気に召して頂いたらしい。


「ものは相談なんだが、ティル。力を貸してくれないか? いま絶対絶命のピンチなんだ」


『イヤよめんどくさい……と言いたいところだけど、アンタなかなか面白い魔力を持ってるわね。後で十分に魔力を吸わせてくれるなら力を貸してあげてもいいわ』


「……そいつは助かる」


 ちょうど魔物がわらわらと集まってきたところだ。いくら魔剣といえどこの状況を打破できるとは思えないが、冥土の土産に威力がどんなものか見ておくのも悪くないだろう。それに、本人(剣?)も自信満々のようだし、奇跡が起こればもしかしたら少し生きながらえるかもしれない。


『じゃあちょっと本気出すから、アンタしっかり握っときなさいよ。ふっとばされてもしらないわよ?』


「わかったよ。オレは振ればいいのか?」


『そんなヘロヘロでアタシが振れるわけないじゃない。いいから握るだけしてなさい。前の使い手が残していった魔力を開放してあげる』


「……了解」


『いくわよ!』


 ティルがそう叫んだ瞬間、錆びたと思っていた剣が黄金色に輝きだした。そして――大きな光が立ち上ったかと思うと、その光剣は周囲の魔物をダンジョンもろとも斬り飛ばしたのだった。


………………

…………

……。


「……まさかダンジョンもろとも斬り飛ばすとは思わなかった」


『何よ悪い? アンタがどうにかしてっていったんじゃない』


「ま、そうだんだけどさ」


 ダンジョンが吹き飛ばされたあとしばらく何が起こったのかわからず茫然としていたが、やがてティルに急かされるかたちで歩き出した。外から見るとちょうどダンジョンはちょうど最深部から地上部までが綺麗にスパッと切れており壮観だった。


「そういえば、ダンジョンの中に仲間がいたんだけど……」


『そんなの知らないわよ。ま、アタシが切った射線上にいなかったなら助かったんじゃないの? そんなことよりアンタ、自分の心配しなさい』


「そう、だな」


 ダンジョンから脱出したはいいけど、ここから近くの街か村まで果たしてたどり着けるかどうか……。


「でも、心配してくれくれるんだな」


『勘違いしないでよ? アタシはまだあんたから報酬をもらってないんだから』


「はは、そうだな」


 そっけないけど、ティルのその言葉はオレを切り捨てていった仲間たちの言葉よりも温かく聞こえた。


「それにしても、また見事に錆びたな」


『それも勘違い。アタシは錆びない。そういう風に作られているもの。ただ魔力がないと力が出ないだけ』


「そんなもんか」


 オレはいま現在杖代わりに使っている錆び色の剣を見やった。


『だから魔力があればまたさっきみたいな力を発揮できる。ま、アンタの魔力次第だけどね。杖代わりにするなんて、本来もってのほかよ!』


「それについては本当に申し訳ない。でも報酬は期待しててくれ。魔力量だけなら誰にも負けない自信がある」


 なんせ無尽蔵に生成できるんだ。


『ならいいわ。そういえば、アンタ名前は?』


「フリッツ。フリッツ・クーベル」


『じゃあフリッツ。アンタ世界で最強になれるわよ。もちろん、アタシを握っている間だけだけどね』


 この世界で最強か……ずいぶん大きく出たもんだ。でもダンジョンを斬り飛ばした威力、あれはまぎれもなく本物だ。


「なら最強にむけて、とりあえず生き残るために歩くか」


『しゃべってないでキリキリ歩きなさい! アンタが倒れるとアタシもここで共倒れなんだからね!』


「はいはい」


 こうしてオレは口の悪い魔剣と出会うことになった。世界最強への道は、まず生きて人のいるところに行き、治療を受けるところから始めなければならない。それでも、


「さっきまで絶望してた身にとっちゃ、この上ない幸運だ」


 さきほど恨んだ神に感謝しながら、オレは目の前に広がる草原を歩き始めた。

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