間合いの達人

 一年も経たないけれど、半年くらいは昔のこと。

 仕事帰りに立ち寄るコンビニに新顔の男性従業員さんがいた。ただそれだけのことで、自分の人生に関わる要因じゃない。レジでカゴを出し、新人さんにお会計をお願いする。


「このパン、美味しいですよね」


 なんの脈絡もなく話しかけられた。こっちは疲れた表情で財布と取りだしていただけ。目を合わせたわけでもない。


 こんな状況、いつもなら面倒だなと愛想笑いで無難に受け流す。しかし新人さんの声のトーンや大きさ、雰囲気などが絶妙な距離感だったため、思わず普通に答えてしまった。


 それ以来、買い物に行くとほぼ必ず世間話をするようになる。意図せず稀有な関係性が生まれた。


 相手との丁度良い立ち位置を一言で当てる。これは才能でしかない。

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