9.普通のデート

店から徒歩でインスタントラーメンが完成する時間歩くと直ぐに商店街に着く。


「おぉ!凄い!」

「あはは 何それ!さっきも見たじゃん!」

「こういうのは何回やってもいいんだよ」


こんなもの誰が買うんだろうと思うような古くさいお土産からお洒落で可愛らしいものまで幅広い商品の並ぶお土産屋さん。


夏らしいきゅうりやソフトクリームなど直ぐにで食べ歩き出来るようなお店も沢山ある。


商店街と言うだけあって店は上の方まで隙間無しに並ぶ。


「フグがいる!」


商店街だぞ、そんなわけ…

「ほ、本当にいる」


生簀なのか、それとも飼っているのか……

直射日光の当たる苔の生えた水槽にフグが3匹。


直射日光が当たって苔の生えた水槽なんてたまに見るから驚かないが中にいるのがフグとなると話は別だ。


フグに詳しくないから意外に簡単なのかもしれないけれど水槽に入れるとなると難しく感じる。

そのせいか…

「なんか、ここだけ別の世界見たい」

なんだか悲しいような、切ないような。

たまに動物園とかにある何も入っていない、苔だらけで中が見えない水槽を見た時のようななんとも言えない感覚だ。

「あ!見てこのがま口財布!可愛い~」


あはは、彼女はそんなこと感じなかった見たい。

一人で切なくなっている僕を置いて足早に可愛いさとオシャレさを兼ね備えた和風なお店に入る彼女を直ぐに追いかける。


中に入ると欲しくなるようながま口財布や和風な商品が綺麗に並べられている。


がま口財布が欲しくなるなんてね。

「みて!このクジラのお財布可愛い!」

「本当だ、このタコのも良くない?」



「え…それはちょっと…」

「あ…そう…」

「うわ!みてみて!これしらす!?」

「しらすのがま口財布なんて珍しいね」

センスあるなぁ。

チンアナゴっぽくて結構可愛いし。

中に内蔵とか書かれてたりして。


「あ!!璃音!」

「え?」

「ほらあの坂の上!幽霊のソフトクリーム&タコせんべいだって!」


奥の方だが目に入る大きなのぼり旗。

さっきも目に入っていたが…目立ちすぎて幽霊用だとは思わなかったよ…

「いこいこ!」

「タコせんべいは楽しみだけど…」

「だけど?」

「ちょっと目立ちすぎじゃない?」

「いいんだって!生きた人間に見えないんだし!」

「まあ、確かに」

幽霊用のスカイツリーが商店街のど真ん中に建てられたとしても生きた人間には見えないんだろうからあんなのぼり旗くらいどうて事ないよね…あはは…




「結構遠いな~」

ギラギラと照りつける太陽に焼かれる感覚だけは感じる。

「僕ら影ないのに暑さは感じるよね」

「そりゃ透けてるんだから裏まで暑いよ」

なんというドヤ顔。

「あ!猫だ!」

金色の目に真っ白な毛の猫が人気のない路地からこちらを見る。

「見えてるのかな」

「多分見えてるよ、ほら猫って幽霊見えるって言うし」

「可愛いね」

猫は頭を下げ民家の屋根に登って行った。

「いま…」

「お辞儀したよね」

「猫すご!!」

冬音はテンション上がりまくりだ。

そんなことも起こりテクテク歩いているとタコせんべいのお店に着く。

店の暖簾には幽霊専用タコせんべい!と手書き風の字が印刷されている。

その横には幼児が描いたのかな?タコが鉄板に潰されそうになり目がバツ印になっている手描きの絵が飾られている。

あはは、タコの気持ちになると怖いなこの絵…



暖簾をくぐると暑苦しそうなイメージとは真逆の若い女性が声を上げる。

「いらっしゃい!」

「あの、タコせんべいください」

「はいよ~、たこせん にね!」

小さなタコと生地を少し鉄板に起き挟み込む。

きゅうううううというタコの悲鳴をものともせずにレバーを回し更に締め上げる。

そして5秒ほどして直ぐに緩め始め鉄板を開けると…

「「おぉ!」」

さっきまでプリプリしていたタコは髪のようにペラペラになっていた。

まるで化石だ。


「はい!おまち!1万ね~」

「え!1万?」

「うそうそ、しんじんなよ~あっははは」

金髪でギャルのような見た目で豪快。

豪快ギャルというジャンルが出来そうだな。

いいひとそうだけど。


「じゃ、楽しんでね 」

「「ありがとうございます!」」


やっぱり最後の笑顔で確信した。

豪快ギャルはいい人だ。

「さて、岩畳に行こう!」

「まだ食べてないよ」

「食べながらいけばいいでしょ」

「ロープウェイ乗り場があるけど、どうする?」

「歩く!」

「だよね~あはは」

坂道の商店街を登り切っても岩畳までまだ半分もこれてない。

「よし いくぞう!」

それに、階段も増えて険しさも増す。

「頑張ろう…」




「水買ってこ!喉乾いた」

「そうだね、どこにあるかな」

幽霊はお腹も空かないし喉も乾かないはずだけど生きている頃の記憶かお腹もすくし喉も乾く、ような気がする。

それにしても普段ならそこらじゅうにある自動販売機で買えるんだけど…

幽霊はそうもいかない。

どこかに買えるところないかな~。

「あった!」

「おお!幽霊専用自動販売機だ!」

幽霊専用の看板の写真集め素敵そうに思えるくらい面白く不思議な看板だ。

「それにしても…」

「これ、さっきのタコせんべいの人じゃない?あの人の絵可愛くていいよね!」

自動販売機には目をバツにした干からびるカタツムリのすぐ目の前に空のペットボトルがある。

なんという残酷な絵なのだろうか。

「た 確かに可愛いね…」


それにしてもタコせんべいの絵もこの自動販売機の絵も本当にあの人が書いてんのかな。

「何飲む?」

「うーん、水」

落ちてきた水を2つ取り出し階段を登る。

「タコせんたべよ~」

「うん」

パリパリ

「ん~!美味しい!」

「美味しいね」

素材をそのまま使っているからだろうか、市販のお菓子よりも自然の味がして美味しい。

結構大きいけど薄いし飛ばされたりで意外と早くなくなる。

ゴクン

ゴクン

「ぷはぁ~、疲れた」

「まだ全然進んでないって」

「え~」

「それに、幽霊は疲れないから」

「疲れるもーん」

「ほら頑張ろ、岩畳の洞窟が待ってる」

「うん!」

階段を上がると神社やお店が数店あった。

さらに階段を登ったり。

坂を登ったり。


「ここ降りたらつくね」

「はぁ…はぁ…づがれだ…」

「幽霊は疲れないからとか言ってたくせにあっはっは」


階段がきつい。

「ほら、行くよ」

「頑張るか」

彼女に手を引っ張られ階段を降りる。

気がつくと足場は岩に変わり磯遊びが楽しそうな岩畳に到着した。


早速 穴が空いて水が溜まっている所を覗き込むとイソギンチャクや小さな魚 カニなどが沢山住んでいる。


「綺麗だね~」


「うわ!タコだ!」

彼女が指さす方をみると深い穴の奥、窪みからタコの足がゆらゆらと揺れる。

「こんな所にいるんだなぁ」


「凄いね、あっちは?」

「洞窟だ、いく?」

「いこう!」

少し戻って陸橋を進むと洞窟に入るチケットが販売している。

「幽霊の方はお代金頂きませんよ~」

ガラガラの声のいかにも幽霊っぽいおばあちゃんが看板を持ち案内している。

「入ってみよ!」

「こういうのってさドキドキするよね」

「わかるぅ~」


洞窟に入ると外の暑さが嘘のように感じる。

「すっごいひんやりしてるね」

「気持ちいい!」


別の世界に入ったかのような不思議な感覚だ。

暗くひんやりして水が滴る洞窟内はワクワクもすると同時に生き埋めにされるという想像をどうしてもしてしまう。

奥に行くと明かりも少なく洞窟特有の光が全くない闇を体験することが出来る。

洞窟特有の闇と不思議な感覚はそうそう味わうことの出来ない、言わば珍味だ。

「冬音!この石綺麗だよ」

「本当だ!宝石みたい」

水に覆われた不思議な石は光を反射させ煌めく。

まるでガラスに覆われた石の様にツルツルに見える。

不思議な力が宿ってますと言わんばかりの石だ。

「よし!江ノ島制覇!」

まだ行ってないところも色々あるけど僕らに時間はないからね。

「そうだね」

「次はどこだっけ」

「あぁ、鎌倉!その後が僕のおすすめ夕日スポット」

「そうかそうか!次回 鎌倉編!だね」

「そうだね」

彼女は明るく振舞ってくれたけどどこか悲しそうだ。

いつまでも救われてばかりじゃいけないな。


「よし!鎌倉にいこう!」

僕は冬音の手を掴む。

「え?」

「ほら!目をつぶって!いくぞ~」


目をつぶる寸前。

彼女の嬉しそうな顔が見れた。

お別れは近いけど、くよくよしていられないんだ!

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