クラス転移+カタログスペック100%=伝説の勇者

喰寝丸太

第1話

 遅刻して教室に入ったら眩しくなって、白い空間にじじいが立っていたって。

 なんの冗談だ。


「おや、まだ残ってたか。おかしいのう。人数分、渡す職業はあったはずなんじゃが」

「おい、じいさん説明してくれ」

「勇者召喚が行われての。職業を渡して全て送り出したんじゃ」

「全てってことはクラスの皆は先に行ってるって事か」

「ああ、そうじゃ」

「俺はどうなる」

「職業は渡せんが、スキルなら一つ好きなのを授けてやろう。言っとくが、無茶は駄目だぞ」


 俺はさっきまで非常に頭にきていた。

 なぜなら、貯金をはたいて親に借金までして買ったスクーターのカタログの燃費が正しくなかったからだ。

 距離から計算して学校まで楽々行って帰れるはずが、まさかの往路でのガス欠。


「そうだな、性能を書いた紙を持って物に触ればカタログスペックが100%になるスキルをくれ」

「嘘は許せんと言うのじゃな。その心意気、あっぱれじゃ。ほい、与えたぞ」


 光が俺の胸に入る。

「さらばじゃ」


 辺りが輝くと俺は魔法陣の上に立っていた。

 部屋には俺の他には神官が一人居るだけだ。


「あれ、今頃勇者が。とりあえず鑑定水晶に触って下さい」

 言われた通り台の水晶に触る。

 映し出された異世界の文章には『職業、無職。スキル、カタログスペック100%』と書かれていた。

 おっ、異世界の文字も読めるんだな。

 少し感心した。


「む、む、無職。それと訳の分からないスキル一つだけ……」

 神官が絶句する。

 それから、俺はあれよあれよという間に城から追い出された。


***



 無一文だし、これからどうしよう。

 まあ、バイトはいろいろしてたから、城下町でなんか仕事、見つかるだろ。


 俺が橋の上に差し掛かると、川面を見てブツブツ言う男が一人。

 係わりたくないなと思いながら通りすぎようとしたら、声が聞き取れた。

「あの、材料の納品書、うそ書きやがって。何が中級から最上級品質の物が作れますだ。最下級じゃねえか」

 おっ、何やら俺の出番のような。


「あの、俺のスキルでなんとかなるかも」

「えっ、そうかい。もし駄目だった場合お金はびた一文、払わねえが良いんだな。出来る物ならやってみろ」

 俺は男に連れられ、鍛冶屋に入っていった。

 材料の納品書片手に全然切れなさそうな剣に手を置いて言う。


「カタログスペック100%」

 光が溢れ収まった頃には如何にも切れそうな剣が置いてあった。

「鑑定。凄い、最上級品質だ」

 俺は鈍らな剣を全てピカピカの剣に変え、お金を貰って当ての無い旅に出た。


***


 次の街に着いて大通りの店の前を通り過ぎた時、何やら聞き覚えのある声が。


「頼みます。これが売れないと、食事もままならないんです」

 店を覗くとクラスメートの小前田おまえだ良美よしみが土下座していた。

「奇遇だな小前田おまえだ

「お金貸して。えっと、波巣流はっする君だっけ。」

「会うなり、出てきた言葉が借金かよ。俺の名前は波久礼はぐれ司郎しろうだ」

「そうだったかな、えへへ。三日も何も食べてないの。じゅる」


 涎を垂らしながら、俺ににじり寄る小前田。

 俺を肉の丸焼きかなんかと勘違いしているのに違いない。

「奢ってやるから涎を拭け」


 飯を食いながら小前田に話を聞いた。

 生徒会長の野上のがみ勇清ゆうせいが聖勇者と聖騎士のダブルジョブで、みんなの指揮を執ってるらしい。

 小前田は職業が錬金術士で女の子のパーティの回復役を任されたんだが、大枚叩いて買った最初のレシピ本が曲者だったようだ。

 見せてもらったら神の如き品が作れると書いてあるけど、材料はどこにでもある普通の物。

 ここに来るまでギルドで薬草採取もやったから、どんな物かは分かる。


 小前田は頑張ってレシピの通りに物を作ったが品質が低くてパーティのお荷物になっていたらしい。


「俺がなんとかしてやるよ」

「騙して、奴隷にしたりしないわよね」

「しないって」

「野上たら酷いんだよ。レシピ探してきたのも野上なのに。夜起きたら、私を奴隷に売ると野上達が相談してたので逃げたの」

「レシピ本と売れないポーションを出してみろ」


 ぶつくさと野上に対して呪詛の言葉を紡ぎながら小前田はテーブルの上にそれらを並べた。


「カタログスペック100%。鑑定してみろ」

 光がポーションを包みポーションの色が変わる。


「鑑定。こ、こ、これ、え、え、エリクサーじゃない。やばいよ、襲われちゃうよ」

「エリクサー金に換えて、この街をさっさとトンズラするぞ」


***


「魔王軍が攻めて来たぞ」

「もうお終いだ」

「この世の終わりだ」

「祈れば奇跡が起こるのじゃ。神はお見捨てにならない」


小前田おまえだ、不味い事になった。ぐずぐずしてたのが仇になった」

「爆弾なら波久礼はぐれ君の協力のおかげで良い物があるけど」

「駄目だ軍団を全滅させるほどの量じゃない。そうだ」


 俺は群集の中から何の宗教かは知らないが、さっき祈れと言っていた人を見つけ出した。


「おい、じいさん。金やるから、経典を早く寄越せ」

 じいさんの経典には祈ったら神が奇跡を起こすと書かれていた。


「やるぞ、小前田なんでも良いから祈れ。カタログスペック100%」

 俺は地面に手を着きスキルを発動した。


 地面が光り、地震が起こり轟音がしてしばらくして辺りが静かになる。


「魔王軍がいないぞ」

「地割れに飲み込まれたのを城壁の上から見た」

「神の奇跡だ」

「助かったぞ」


 今度こそ旅に出よう。


***


 ほいっと、爆弾投げて魔獣討伐完了っと。

 俺達はギルドで魔獣討伐の依頼を受けながら旅をしていた。


波久礼はぐれ君、あっちから悲鳴が聞こえるよ」

「じゃ、人助けしてみますか」


 悲鳴の元に駆けつけると、魔法使いの格好をした女の子がオークから逃げていた。

 爆弾を取り出し俺はオークに投げつける。

 オークは汚いお星様になった。

 小前田の爆弾は凶悪だ。


「大丈夫?」

 小前田が女の子に問い掛ける。


「あんた達もっと早く助けなさいよ」

「よくみたら、日本人じゃねえか」

波久礼はぐれ君、クラスメートの御花畑おはなばたけ未依子みいこさんだよ」

「ああ、そんな奴もいたな。どうせ役立たずで追い出された口だろう」

「追い出されたんじゃないわ。私の才能が分からないボンクラ共だから、こっちから見限ってやったの」


「何か困っている事あるだろ」

「特別に聞かせてあげるわ。へっぽこ魔導書が結果だけ書いてあって、途中が抜けているのが腹立つたらもう」

 魔導書を見せてもらうと訓練方法やら理論やら書いてあるが、この本の通りにやれば間違いなしとしか書いてない。

 コツに当たる部分がごっそり抜けている。

 長年修行してコツを掴めという事なんだろうけど、不親切だ。


「よし、人間を辞めさせてやる。カタログスペック100%」

 俺は魔導書を片手に御花畑おはなばたけの肩に手を置いてスキルを発動した。

 光が御花畑おはなばたけを包み込むんで元に戻る。

 生き物も物だという事だな。


「魔法撃ってみろ」

「ファイヤーボール」

 10メートル程の火球が木に向かって飛んで行く。

 木は周りを巻き込み、爆散する。


「ひゃっはー、ファイヤーボール、ファイヤーボール、ファイヤーボール」

 御花畑おはなばたけが壊れたようだ。

 森は更地になった。


未依子みいこちゃん抑えて」

「これで勝つる。馬鹿にしていたあいつらも見返してやれる」


 そんな訳で一人パーティに追加して俺達の旅は続く。


***


「あいつら、勝てると思う」

 俺達は魔王城の抜け穴という地図を手に入れた。

 当然、抜け穴は罠だったが、スキルの力を使えば楽勝。

 王座の裏の柱の影に出た俺達は丁度到着したクラスメイトを見ていた。


「うーん、どうかな。全然ダメージが入ってなさそうよ」

「私を馬鹿にした報いですわ」


 選抜して最高戦力で当たったのだろうが、攻撃は全て跳ね返されている。

 そして反撃された。


「シャイニングスラッシュ。ホーリーバッシュ」

 一人残った野上が攻撃を仕掛ける。

「ぬるいわ」

 魔王の大剣でなぎ払われ野上はずたぼろになった。


「ちょっと、通りますよ」

 俺は野上の所に行き聖剣を拾い上げた。

「貴様はなんだ」


「勇者だ。カタログスペック100%」

 俺は片手に聖剣、もう一方に勇者の物語を持ってスキルを発動した。

 聖剣が光を纏い輝いた。


 物語では勇者の聖剣の一振りで山が割れたと書いてある。

 俺は聖剣を振りかぶり振り下ろした。

 剣の軌跡は衝撃波を呼び、魔王を切り裂く。

 そして、衝撃波は魔王城をも切り裂いた。


「ぐわぁ。その力はなんだ。申し訳ありません、邪神様。命の残りを復活に捧げます」


 黒い渦巻いた穴が開き巨大な邪神が生れ落ちた。


小前田おまえだ御花畑おはなばたけお前達は今から聖女と賢者だ。名乗りを上げろ」

「聖女の小前田おまえだです」

「賢者の御花畑おはなばたけよ」


「よし、条件は整った」

 俺は預言書を持って、邪神に駆け寄り、足に触る。


「カタログスペック100%」

 光が邪神を包み、ボロボロと邪神が崩れる。


「生まれたばかりのわれが崩壊するだと。無敵のはずのわれが何故滅びる」

「預言書に書いてあるんだよ、『勇者と聖女と賢者が邪神の誕生に集まれば邪神が滅ぶ』と。さよならだ」



 俺は野上の側に行き声を張り上げた。

「神様! いかさま野郎がここに居るぜ!」


 次の瞬間、稲妻が野上に落ちる。

 死んではいないようだから、何か罰でも喰らったんだろう。


***


 俺は勇者が魔王を退治して元の世界に帰る物語をスキルで現実にしてやった。

 クラス39人全員、帰ったな。あれ、40人だったような。

 まあ良いだろう。罰でブサイクになって、帰りたくない奴でもいたんだろう。


 地球でスクーターに乗りカタログ片手に叫ぶ。

「カタログスペック100%!」


 スクーターは光に包まれた。

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