誰もいない海


狂っていないよ

視界は良好だよ

ビーチを埋め尽くすようにパラソルが突き刺さっていて

ここから眺めていると

それが色とりどりでとても綺麗だよ

きみに手紙を書こう

この気持ちが消失してしまうその前に

ああ………

けれどここには

誰もいないね

こんなに暑い夏の海だというのに

わたしはずっと寄せては返す波を見つめていた

それ以外に移り変わる景色は何も無かった

瞳に映る平坦な景色

そこにわたしがいきなり現れて思いっきり掻き乱すことが出来たなら

そんな風に考えることは容易い

けれどわたしの見る景色の中に飛び込んだわたしは既にわたしの見る景色の中にはいないだろう

裸の背中に冷たい風が吹いた

ビーチに突き刺さっているパラソルの中から水玉模様のやつだけを数え始めた

(一体、幾つあるのだろう?)

純粋な興味

けれど途中でわからなくなってしまった

指を使ったけれど足りなくなってしまった

もう一度、始めから数え直す気にはなれなかった

気付けば辺りは夕闇に包み込まれていた

もうすぐ何もかも黒くなる

突き刺さったパラソルの色も判別不能

さらに冷たくなった風を浴びるのだろうか?

もしもここではない何処かが本当に存在するのならば

そしてそれを現実と呼ぶならば

それはどんなに希望ってやつに似ているだろうね

でもわたしは再び目覚めた

この誰もいない海で

予め用意されていた場所へとやって来ただけ

運命は酸素を吸って吐くことでけして逃れることは出来ない

そして安っぽい値段でいつも売買されている


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