回転


おはよう

おれの名前はジュンタだ

青森出身のお兄さんだよ

趣味は陶芸

と言っても作る方ではなく割る方

趣味、陶芸破壊

アスファルトでフィッシュバーガーを噛みながらニヤニヤしつつ「シャブくれよ」

なんて言っている奴がいたら

それは間違いなくおれだからさ

気軽に声をかけてくれよな

「やあ」

だとか

「ねえ」

だとか

「おい」

だとか

返事ぐらいはするよ

「金くれ」

ってね

おれの返事の九割は金くれなんだ

だから就職活動の時は大変だった

「我が社のどのようなところに興味を持たれましたか?」

「金くれ」

それでも何とかこうして今の会社に潜り込めて良かった

「さあ寿司でも食うかっ」

今日も会社の金を使い込み自分にご褒美

………と言ってもこの世界的な不況の中、回転する方なのだが

『スピン寿司』

そこへ入ってみることにした

大将が言った

「らっしぇー、今日はいいネタがよく回ってるよ」

なかなか愉快な大将だと思った

「どのくらい回ってるの?」

おれは尋ねた

「うーん、レベル99まであるからなあ」

「じゃあ99で」

おれは迷う事なく言った

カウンターの奥にいた常連らしき男が微笑を浮かべ口を挟んできた

「やめておいた方がいい、おれでさえまだ47が限度なんだ」

お前だよ、という質問を堪えおれは言った

「たかが回転寿司だろ」

大将は重々しげに口を開いた

「あちらのお客様の………レベル47の時は店の天井が半壊しました」

なんでそんなに凄いんだよ!

常連客の隣りに座っていた小太りの男も会話に参加してきた

「この店ではあれはツイスターって呼ばれてるんだよ」

ただそこにいるだけで何故か誇らしげだった

おれは結局レベル22を頼むことにした

ツイスターの説明をおれにしてきた小太りが設置されていた安全装置のベルトをぐっと腰に巻き付けた

「じゃあ、いきまっせ」

大将がぐっとレバーを倒した

レーンの上を回っていたマグロが天井に吹っ飛んだ

それは一瞬の出来事だった

その後、時間差でまず皿、そのあと潰れた寿司が交互に落下して来た

「………」

そこにいるみんなが無言でそれを眺めていた

罪悪感があった

それはそうだろう

こんなことして一体、何の意味がある?

常連客の一人が伏し目がちに口を開いた

「大将………ついにこの時が来たんじゃないですかねえ」

大将は無言で頷いた

そしてレバーを思いっきり下げた

ちょ………ちょっと待てよ

レベル99だ



その晩、ニュースでは気象予報士は大興奮していた

「寿司屋から、竜巻ができたあ!」

そいつは阿呆みたいにはしゃいだので即クビとなった


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