漫才


「こんちはー」

おれの手首が勝手におしゃべりを開始した

「いやいやどうもどうもお」

しかも唐突に

「あたたかいですねえ春ですねえ」

呆気にとられているおれを横目に

ぶんぶん動き回りながら

「そりゃあきみ春ですから」

もう片方の手首もここぞとばかりに会話に参加した

「いや今わたしそれ言いましたやん」

置いてけぼりのおれだけが真ん中で突っ立っていた

「なんでやねん!」

ぺしんと手首が手首にツッコミを入れた

おれの手首たちは漫才コンビを結成した

手首には脳が無い

だからその内容は極めて薄かった

舞台に立ったが客は大いに冷めた

「チルドやんけ!」

だがこのツッコミがウケ数年後、流行語大賞を獲得するに至った


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