第2話 初めての痛み、失敗の後悔
弁当は案の定中休みに捨てられ、いつものように校舎裏に呼び出された。
校舎裏で暴力を振るわれるのは慣れているので、下を向いていても目的地にたどり着ける。今日も、一度も前を見る事なく到着した。
そこまではよかったのだが……
「……失礼します」
「あら、どうしたの?」
左手で引き戸を開け、ちょうど良い気温・湿度になっている医務室に入る。
部屋では、いつも黒縁のデカメガネをかけた背の高い(噂では167cmらしい)女の先生が椅子に座っている。
医務室に行くのは初めてだし、深い所まで怪我した場面を聞かれそうなので行きたくない。正直、今日だって行きたくなかった。
けど……
「右手の中指が痛いし、なんかおかしいんです」
そう。暴力を振るわれた時、とある奴の拳が直に当たった右手の中指が身体の何処よりも痛いのだ。
特定の場所がズキズキ痛む事は何度もあるが、今はそれらと比べ物にならない程痛みがある。
いつも暴力の嵐を受け止めている僕でも流石に耐えきれないので、医務室に行くしかなかった。
「ちょっと見せて?」
「あ、はい」
僕が先生の前に置かれた丸椅子に座ってゆっくりと右手を出すと、中指をクイっと曲げられた。
「い"っ」
「あーごめんね」
それが何回かあった後、先生が「これは骨折かな」と呟いた。
……まじか。今まで一回も骨折した事がなかったこの僕が。
「どうしてこんな所骨折したの?」
先生が、優しく、でも答えろ答えろと脅している感がすごい感じで聞いてきた。
それを聞かれる事は容易に想像できた。というか、最初から確定案件だ。
ここは適当に答えるしかない。疑われたら困る。
「外の塀にぶつけて遊んでました」
「はあ? 馬鹿ね……今日にでも病院行ってきなさいよ?」
幸い、僕は優等生タイプではない。この間の中間考査でも、成績は中の下だった。合計点の約7割を数理で獲っているという始末。
これが上クラスの奴だったらこんな嘘通用しないんだろうな……と、顔に出さないようにしみじみ思った。
……午後11時、自宅。ベッドの上。
放課後、一旦家に帰らずに病院で治療をしてもらった。
病院でも骨折した時の状況を聞かれたが、医務室の先生に言った事と同じ内容で誤魔化した。
家に帰ると、普通に鍵で扉が開き、いつものように中に入る事ができた。何かを盗まれた感じはない。
……どうしよう。右手に違和感が有りすぎて眠れない。こんな事なら、ちゃんと勝手口からあ外出すればよかった。
少し動いたら眠れるかもしれない。そんな考えを持ち、とりあえずリビングに出てみた。
独り暮らしの高校生にしては豪華過ぎるリビング。そういえば、僕と同じ高校生が自殺した所で、その子の親が賃貸に出したとか。まぁ、同じ高校生といっても女子らしいんだけど。
僕は別に幽霊とかは怖くないので、最初から置いてあった家具を使っている。捨てるのも面倒だし、何より家具を買うお金なんてある訳がないので、逆に嬉しいとさえ思っている。
茶色のソファー。少し小さめのテレビ。ごわごわしているカーペット。
……いつ見ても古そうなキッチン。その横にある、これまた古くさい勝手口。
もう真っ暗の為、勝手口の先が異世界なのか何なのかは分からない。
今朝は試せなかったけれど、ちょっと覗いてみようかな。そう思い、ゆっくりと勝手口へ向かった。
ノブを回す。勿論左手で。
体を使い、ドア全体を軽く押す。
「あれ?開かない」
力いっぱい引く。でも開かない。
「どうなってんだよ、この家の扉……」
もう意味が分からない。睡魔も襲ってきたことだし、今日はもう寝る事にした。
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