#15

定期的と呼ばれるものには中毒も含まれる

それが違法でなければ異を唱えても個人の自由が尊重される

土曜にしかカレーを出さない店に別の曜日も顔を出し

俺は、あの店の中毒者すなわち常連になった


異今都(いきょうと)それがこの店の名前

随分変わっていて捻くれた店名だけど背もたれのない椅子や

カウンターに置かれた青い林檎、黒魔術で使用しそうな柄の灰皿

奇妙な空間に迷い込んだ末の居心地の良さ


今とは異なる都、その名の通りの異空間でナポリタンを待っていた


一番奥の椅子はいつも不在で、あそこだけ背もたれのある椅子

時折女性が座っているように見えては残像が瞼にこびりつくことが

抗鬱剤を飲んでいた頃にあった

いつだったかその事をマスターに言ったら店を畳むことになったら奥の椅子をくれてやると笑われた


瞼にこびりついた女性は似ていた

生きていれば歳が同じぐらいのメグミに


帰宅し煙草をくわえながら本棚の前で聖書を読み返していた

心の病からのマリアとの遭遇後、勢いで買った聖書

あのころはキッチンで新約と旧約を読み比べた

コーヒーとタバコと聖書

酒浸りの創成期は克服と言う福音をもたらし

隠微な淫靡が溢れ出す終末がハードコアな夜を演出する


旧約聖書を棚に戻すと写真が落ちた

2枚ある写真は閉まっていた胸が苦しくなる記憶

1枚は画像の粗さが目立ち、その粗さが温かみを感じる

幼い二人の無垢で無邪気な笑顔


もう1枚は今時の繊細な綺麗さが技術の進化を表し

大人の二人が本音と建て前を絡めた笑顔のように見える


時が経つに連れ逆行する純粋を2枚の写真が物語っていた

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