第16話 ブラン
気安く嫌味もこもった言葉に撫子とクララは豆鉄砲食らったかのような顔になった。
この金髪のショートカットでドレスの女性が魔王。それはクララも知っている。撫子はそれにも驚いている。
しかしこの蘇芳は魔王に対して無礼な物言いで、二人はそこにひやひやしていた。
そんな二人の気持ちも知らず、魔王は二人を見て瞳を輝かせた。
「あっ、こっちがナデシコちゃんね。かわいいっ。東の女の子ってちっちゃくてきめ細やかで職人さんが作ったお人形さんみたいよねっ」
撫子は気付けば魔王に抱きしめられていた。豊満な胸により窒息しそうになる。
「で、クララちゃん。いつもありがとう! サキュバスちゃん達のおかげでここの防衛もうまくいってます!」
「み、身に余る光栄、です……」
ろくに敬語も使えないクララでさえ恐れ多く縮こまっていた。こちらもハグがあったが、胸と胸がぶつかるため密着度は少ない。
魔王は見た目がいい女性であるし、人懐っこく明るく素直な性格をしている。思っていたよりは気さくなものだ。しかしどこか迫力があると、撫子とクララは思う。
「陛下、ちゃんとした自己紹介を。撫子は初めてなんだから」
「あ、そっか。どうもはじめまして。私の名前はブランヴァイス。ブランって呼んでくれると嬉しいなっ。魔王やってます!」
「……ぶらんばいすさま」
「ブランでいいよ。あ、撫子ちゃんなら『ラン』とかそういうふうのが呼びやすいかな?」
「撫子、魔王陛下と呼ぶといい。あと、この人はやたら親密な振る舞いを望むが、他の部下の前ではちゃんとしてやってくれ」
魔王ブランのペースになりそうなところを蘇芳がなんとか引き戻す。確かにこの人懐っこい態度は、撫子達と仲良くなりたいのだろう。しかしそうはいかないのが主従関係だ。
今はカンヅメ中でプライベートに近いが、謁見や軍議中に彼女の望むようには振る舞うなという事だ。だから蘇芳はブランに対してぞんざいだった。彼もさすがに公の場ではわきまえているらしいが、それでも今の扱いは雑だ。
「それで魔王陛下。新種の創造は?」
やはり雑に蘇芳が聞いて、ブランはドヤ顔で紙を見せる。それは新種魔物の仕様書だろう
「ふふ、我ながら自分の才能が恐ろしくなるいい出来だよ……!」
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