第3話 カンヅメ
「壇上は危険です! 敵地ではないとはいえ、うっかり虎区へ入り込むかもしれません。察知能力に優れた私は、必ずお役に立てます!」
「ダンジョンとトラップな。そうだな、ありがとう。このまま任務に付き合ってもらおうか」
撫子からの真剣な気持ちを蘇芳はありがたく受け取りつつも訂正した。
そして二人は改めてこれから挑む塔へと視線を向けた。やがて撫子がなんとか手に入れた情報を語る。
「この塔は付近の人間からは『ある婆取らずの塔』と呼ばれているようです」
「多分アルバトロスだな」
「全五階層。規模としては小さいもので、現在魔王軍が占領していますが、度々人間共に奪われる事もあるとか」
「ならば最上階まで上がる事はたやすいが、それ故に楽観視はできないな」
蘇芳は改めて気を引き締めた。このダンジョンはダンジョンの中でも攻略しやすい部類だろう。それ故に魔物か人間、どちらかがかわるがわる占領してきた。今は魔王軍が所有してはいるが、それもいつ人間に奪われるかはわからない。
「しかし、何故魔王陛下はこんな塔の最上階へやってきたのでしょう。言ってみれば、市場の屋台に大店の主人がやってくるようなものでしょう」
「ああ、そのあたりは撫子にはまだ話していなかったか。簡単に言えば、防衛の強化だ」
なるべくカタカナ語を使わず蘇芳は説明する。多分、本当は撫子も聞いている話だが、本人はカタカナ語で混乱してよく理解していなかったのだろう。
「この塔は龍脈の上にある。マナ……魔力の高まる場所だ、と言ったな?」
「はい。覚えております」
「そして魔王陛下は新種の魔物を作る能力を持っている」
「新種の、魔物?」
「ああ、人間と戦う魔物を作る、創造の力だ。本人が言うには、魔力を操作すればできるらしい。だから魔力の豊富な龍脈の上で作る。そこが作りやすく繁殖しやすいからだ」
つまり魔王軍にとって、龍脈とは魔物の生産工場であるらしい。魔王だけが新種の魔物を作る事ができる能力を持っていて、魔物を作るのに最適な龍脈に向かう。だから魔王がこんな初心者向けダンジョンにいるというわけだろう。
「なぜこの場が創造に選ばれたとすれば、防衛のためだろうな。これだけ制圧しやすい龍脈はない。人間に奪われる前に戦力増強するため、新種を作るのが目的だ。俺達はそれを『カンヅメ』と呼んでいる」
「缶詰……おいしいものがつまってるあれですか」
「少し違うな。ダラダラしがちな作業する作家が集中できるよう、娯楽を断つためわざわざよそで作業をするというあれだ」
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