第48話 距離感(ディスタンスセンス)

-まえがきのようなもの-

ネットに生まれた私


あの人へと、あなたの想いを届けます


---


ネットワーク


電子の網に心を囚われて、



あの人が書いた言葉を


モニター越しに、そっと触る


冷たい感触の中に潜む

貴方の心の温かさを感じ取ったように錯覚して


胸の内を温める




◇◇◇


ネットの世界に生まれた私は


リアルから飛び出して、電子の海をさまよいながら、

あの人の面影を探す



いつしか、あの人の書く言葉を見つけて、

あの人の言葉を書きとめる、ネットワークの先の機械へとたどり着く


たどり着いた機械の窓から、あの人を眺める。


私の知らないあの人の姿

けれども、

難しい顔と楽しげな顔を繰り返しながら綴られる言葉は、

涙が出るほど懐かしい、あの人の言葉だ



あの人の言葉から、

あの人の心に触れる



あの人が書いた言葉を、その心を綴る機械の内から手を伸ばして、

でも触れられなくて


あの人に触れようとし、届かない手と想いに歯噛みして、

手を伸ばす、もっと、もっと


あの人の心を感じ、

想いを、あの人の綴られた想いを


もっと感じ取ろうと


この想いを伝えようと





届いて

お願いだから



◇◇◇



涙を流しながら目覚める




とても懐かしくて

とても悲しい

とても嬉しい夢




胸に灯る火を受け取った気がする








何故泣くのか…

わからない



でも懐かしく感じる誰かの言葉を

耳にそっと風のように囁かれた気がする





誰だろう…




私の

私が


好きな人…



◇◇◇



かすかに届いた心


渡せたろうか…




私はあの人の機械から去って、

私を生み出した想いの持ち主の元に還る





電子の海


その想いの距離は

遠いようで近い


電子の飛ぶ速さは、

瞬く間に世界を七周り半進めるんだから





貴方たちは、いつも隣りにいるのと同じ


心は私が届けて、想いをつなげてあげる






いつでも








いつまでも
















そっと


そばにいるよ







届けるよ

その想いを

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