第2話 俺
自己紹介が遅れたね。俺の名前は、カイリ。北の端の方にある小さな村で育った村人だ。聖剣に憧れて剣の勉強を始めたただの少年。
気づけば村で最強になってて、もちろん小さな村だから大したことはないんだけど。勇者選定に向かいたいといったらみんな快く送り出してくれた。
“勝者 カイリ”
その文字とともにあがるのはすごい歓声。
最初の試合で目をつけられてしまったらしい。それにフード被ってるのなんて俺だけだから余計目立っていた。最強の味方が最大の仇になるとは……人生わからないものだ。
とりあえずこれで予選は勝ち抜いたことになった。
明後日から始まるのは決勝戦だ。
ちょっとした高揚感とともに宿へ戻ると、宿主さんが暖かく出迎えてくれた。
「よぉ、すごいじゃねぇかおまえ。よくやるなぁ!」
背中をバシバシ叩く宿主のおじさん。名前は忘れた。
「ありがとうございます。ついでに俺の飯タダにしといてください」
「抜け目ねぇなぁ!いいぜ!お祝いだ!」
絶対拒否されると思った要求があっさり通ったことに驚く俺と、それを面白そうに見つめる宿主。ニヤニヤと口の端をあげる彼に、俺は心の中で全力で突っ込んだ。
(ただでさえ怖いのにもっと怖くなってるぞ)
ーー
「ごちそうさまでした。ありがとうございます。」
「いいってことよ!」
またしても俺の肩をバシバシ叩くおじさん。彼の名前はガムラというらしい。
……カイリが何気ない顔で耐えている肩バシバシだが、元最前線の冒険者だったガムラのとんでもない力を耐え切っている。ガムラはそれをみてさらに口の端をあげた。
なぜ嬉しそうなのかわからない俺は、それじゃあ。と別れを切り出し部屋にもどる。愛用の刀を取り出して、日課になった刃研ぎ作業を始めた。
シュッシュッと切れ味の良さそうな音を鳴らし出した刃物を証明に掲げてキラッとやってみる。やっぱりかっこいい。こいつが1番だ。
彼はあくまで力試しに来たのであって、聖剣も、お金にも、地位にも興味がない。箱の中で生きていた自分がどこまで強いのか知るためだった。
ところが敵はボールのように跳ねていっちゃうし、動きが尋常じゃないほど遅い。結局俺はどこまでの力を持っているのか、いけるところまで進んでみよう。というのが本日の反省会で出された結論だった。
(優勝することはできなくても、強い人に会いたいな)
その願いは不思議な形で叶うことになった。
「そこのお前!気に入った!俺と戦え!」
この一言に俺は感謝する。
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