No.82 人間なんて
なにかいい匂いがするな。
うちはどこからかやってくるお肉を焼いた香りと包丁の音で目を覚ます。
窓からは温かい朝日。
空気はすこしひんやりしていて、気持ちいいぐらいの気温だった。
うちはふかふかの布団の中から脱出し起き上がると、ベッドからすぐに降りた。
自分が寝ている場所は1つのベッドしかなく、ルースは別の部屋で寝ていた。
2階に降りると、テーブルにはすでにサラダなどの朝食の用意がされていた。
キッチンには調理をするマティア。
……。
何から何まで悪いな……。
うちがマティアの背中を見ていると、マティアはクルリと振り返り、
「おはよう、アメリアさん」
笑顔で挨拶をしてくれた。
「おはよう」
うちも挨拶を返すと、マティアの隣に行きフライパンの中を覗く。
そこには美味しそうな目玉焼きとウインナー。
さっき2階から香りがしたのはこれだったか。
うちが今日の朝食を見ていると、マティアが「紅茶とコーヒー、どちらがいい??」と聞いてきたのでうちは「コーヒー」と答えた。
そういや、ルースは??
ここにはいなさそうだし、さっきの様子からダイニングの方にもいなかった。
まだ、寝ているのか??
らしくないな……。
「マティア、ルースはどこにいるんだ??」
「まだ、起きてないみたいよ。2階から降りてきてないみたい。よかったら、起こしてきてくれる?? もうすぐでパンも焼けるから」
「わかった」
うちは何も手伝えておらず、何かせねばと考えていたため、すぐに2階へと上がった。
うちの隣の部屋はルースの部屋で、うちはその扉の前に立つと、ルースが起きているか一応ノックした。
叩いたが、数十秒待っても無反応。
これ、寝てるってことでいいよな??
着替えてなんかないよな??
ルースがまだ寝ていると判断したうちはドアノブを持ちそっと開けていく。
部屋の中で動いているものはなく、ベッドの上にはルースがすやすやと眠っていた。
うちは部屋の中に入るなり、ベッドわきに向かう。
ルースの寝相はよく、うちが立っている方に体を横にしていた。
ルースの寝顔……、なんかかわいいな。
さすが、攻略対象者とでも言えばよいのだろうか??
ルースの寝顔は天使のようにかわいく見え、起こしたくない気持ちの方が勝りそうになる。
普段はあまり気にしなかったけれど、ルースの顔は美顔だよな。
しかも、女子のうちよりも肌は白い。
クソっ。
ルースは仕事ばっかしている仕事人間だが、女子の評判は良かった。
学園では休み時間などに女子たちが話しかけに来ていた。
しかし、ルースはたとえ上の身分の令嬢からお付き合いを申し込まれても、断っていた。
仕事に使えるのかもしれないのに、何を考えているのやら。
それで一回うちが、「お前、好きなやつはいないのか?? なんで告白を断るんだよ」と言うと、
「僕には心に決めた人がいる」
と言われた。
心に決めた人とは誰のことやら。
なんて、考えていると目の前にいるルースは寝返りをし、反対を向く。
ああ、コイツを起こさないといけなかったんだよな。
そして、うちがルースを起こそうと手を伸ばすと、ルースがなにか小さな声で言った。
寝言か……??
また、ルースは寝返り、うちの方に向く。
「アメリア王女様、愛しています」
「はぁ??」
何言ってんだコイツ??
★★★★★★★★★★
サガ島と橋でつながっている反人間派のノルナゲスト島。
反人間派の島の中でも一番大きく、王城が置かれていた。
その王城に住む1人の女性のもとにある知らせが届く。
「人間が入り込んだ……?? 一体、どこから??」
女性はノルナゲスト島を一望できる窓際で立っていた。
数メートル離れた場所には跪く使いの男。
「それは現在調べておりまして……。しかし、オルム島は厳重な警備を張っておりますのでそこからの侵入はないと……」
「あなた、まさか、古代魔法が破られたとでも言いたいの??」
その女性の迫力に使いの男は声を震わせる。
「と、とんでもございませんっ!! 人間があのバリアを破るなどっ!! しかし、オルム島で人間を見たものはいないのです。サガ島で目撃されましたので……」
女性は見える美しい景色から使いの男の方に目をやる。
「サガ島……あの男が住むところか……」
「え、ええ。そうです」
女性は使いの男の前まで歩き、目の前で足を止める。
「あなた、サガ島の例の男のとこまで行きなさい。そこに人間はいるはずよ」
「承知いたしましたっ!!」
男は女性の命令を受けるとすぐに部屋から退出する。
男が部屋から見えなくなると、女性はまた窓際に立った。
「人間なんてもうこりごりだわ……」
そうつぶやき、女性は溜息をついた。
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