No.25 なんで死神がやってくるんだよ

「ねえ、ティナ。姉さんはこんな朝早くからどこ行ったの??」


悪役令嬢の義弟ルイはアメリアの部屋に訪れていた。

その部屋から出てきたのはアメリア専属メイドのティナだった。


「それをいうなら、ルイ様もこんな早くから何か御用ですか??」

「姉さんと教室まで行こうと思って、迎えに来たんだよ。で、どこに行ったの??」


ティナは呆れた顔をしながら、主人の居場所を話す。


「アメリア様なら、研究棟に行きましたよ。昨日から研究室を借りていたようでして」

「え??」

「なんか、バット?というものを作るとおっしゃっていましたよ」

「え??」


ルイも相変わらずすぎる姉に対し呆れた顔をしていた。




★★★★★★★★★★




「ああ、久しぶりだな。自分の研究室なんて」


うちは公爵令嬢という身分を存分に使い、学園長に交渉して(つーか脅して)この研究室を借りていた。

うちの研究室となる348教室。

またの名を348差し歯教室。

覚えやすいと考え、アメリアは昨日からこう呼んでいた。

その4階にある差し歯教室だが、正方形8メートルと前世の学校の教室ぐらいの広さがあり、必要としていた研究室としては十分な広さだった。

また、ある程度の魔法道具は揃っており、完璧と言いたい研究室であった。


「んー。必要とする材料はやはり置いていないか」


しかし、研究に使う試料や材料はさすがに用意さていなかった

うちは前世の相棒金属バットを作ることを考えていた。

その金属バットには基本アルミニウム、銅、亜鉛を必要とする。

しかし、この世界で読んだどの本にもアルミニウムというものはなかった。

電気分解という概念がないのだろうな。

アルミニウムを生成するには電気を必要とする。

少量の場合は異なるが、大量生産なら電気分解を行った方がなんだかんだ効率的である。

しっくりくるバットを作りたいからな。

1回ではうまく作れない。

きっと結構失敗するだろう。

そう考えると失敗する前提で材料の量を準備したい。

乙ゲーの世界この世界では銅と亜鉛はすでに簡単に得ることができるが、アルミニウム自体なかった。

ほとんどのものが鉄。

材料から生成かぁ……。

バットの材料を他のもの代用できないか熟考していると、うちの研究室の扉の開く音が聞こえた。


「ここにアメリア・ホワードはいますか??」

「ゲッ」


変な声が出させる人物はあのルックス完璧王子だった。

なんでフレイアイツがやってくるんだよ。


「いないぜー」


しゃがみこみ、姿を見られないように机の後ろに隠れる。


「いるんでしょ。出てきて」


彼の足音が近づいてくる。

見つかりたくない目を合わせたくないうちはその足音から遠ざかるように赤ちゃんのごとくはいはいをして逃げる。

しかし、1分も経たずうちのはいはい姿は見られてしまった。


「いた。令嬢がなんて行動してるの」

「いえ、元庶民なんで。ほら、王子はうちみたいな庶民出身の令嬢に構ってる暇なんてないだろ」


床に這いつくばったまま、こちらを見下ろすフレイを見上げる。


「君に用……というか昨日ことを謝罪しなければならないと思って」


フレイのしつこい謝罪にはぁとため息をつき、猿が進化するようにゆっくりと立ち上がる。


「あんた、昨日の話聞いてた?? あんたは何もしてないんだ。ただ、うちは貴族がたくさんいたから驚いただけ。それだけ」


フレイは何を疑問に思ったのか首をかしげる。


「エリカは庶民だけど??」


え、えっ、えーと。


「あ、あ、ほら、勢いでさぁ。全員、貴族と思ったんだよ」

「エリカは言ってたよ。始めにエリカ自分を見たとき、叫んだって」

「あ、あ、ほら。エリカさんだっけ?? あの子、光魔法を持つっていうので有名じゃないか??」

「ふーん」


フレイは疑わしそうな目で見る。


「ほら、分かったろ。うちは研究……するんだから、あんたは邪魔だ。ほら、どっか行け」


うちの死神どっか行け。

追っ払うように手を振りながら研究という言葉を口にすると、彼の瞳孔がとたんに開いた。


「へぇ。公爵令嬢の君が研究?? 令嬢が研究??」

「そうだが……なんだよ」


フレイが徐々に顔を近づけてくるため、うちはつい後ろに下がる。

なんで、コイツ近づいてくるんだ。


「君って、もしかして……」

「うわっ!!」


床に落ちていた何かを踏んでしまい後ろへ倒れる。

その瞬間天井が見えていたのだが。


「危ないっ」


フレイは瞬時に転倒したうちの腕をつかみ、自分の方へ抱き寄せた。

何この状況。

冷静に見るとフレイに抱かれている体制になっていた。


「おい、離せ」

「あ、ごめん」


フレイはなぜか声をかけるまで、うちを解放しなかった。

普通嫌だろ、知り合ったばっかの女と抱き合うなんて。


「なんだか、彼女と香りが似ているな」

「きもっ。てか、彼女って誰だよ」


フェイス完璧王子のフレイはニコッと笑顔になる。

うっ、まぶし。

美しすぎる花が咲いとる。


「君と同じ名前、アメリアだよ。アメリア・C・トッカータ」


その瞬間うちの思考は停止した。


「君って、名前がアメリアだし、髪色と瞳の色が異なるけど、顔の形、香り、仕草はとても似てるから思わずアメリア王女彼女かなって思っちゃって。でも、君の話し方は何というかTHE・庶民だから彼女ではないね。ごめんね、変な勘違いしちゃって」

「フレイ様いましたわ。あ、アメリア様も!!」


入り口付近で例の子の声が聞こえ、後ろを振り返る。

案の定、エリカが満面の笑みで立っていた。


「お2人も朝が早いのですね。しかも、研究室に朝から。さすがです!! それで、一体お2人はなにをなさっていたのですか??」

「なにもし……」

「一緒に研究しようって言ってたんだよ」


フレイはうちの言葉をわざとらしく遮って言った。


「まぁ!! 素晴らしい!! ぜひ私も協力させてくださいませっ!!」


世界一幸せそうな表情をするエリカはうちに近寄り、うちの両手を取る。

はぁ!?

誰もそんなこと言ってないんだが??

ハチャメチャなことを勝手に言ったフレイを睨む。

彼はその睨みに答え、うちだけに聞こえるよう小声で言った。


「いいじゃないか?? 君、研究材料なくて困ってたんだよね?? 僕ならいくらでも手伝うよ??」


その魅力的なフレイの提案に思わず迷いが生まれる。

確かにアルミニウムの原料ボーキサイトは大量に必要だし、他のもの多く必要だ。

それをテウタに頼んで仕入れるのは時間が確実にかかる。

苛立ちをたっぷり含めた舌打ちをして答えてやった。


「ああ……いいよ」

「やったー!!!」


エリカは無邪気に喜ぶ。

一方で、うちはというと未来に自分が殺されてしまうという不安を感じ、隠せず暗い空気をまとっていた。

死神がぁ……死神が増えてしまった。


「あ、姉さんいた。僕を置いていくなんて酷いよ」


怒ったルイが研究室に入ってきた。


「悪い。研究したくて」

「それティナから聞いた。置いて行ったお詫びとして僕を助手にして。なんでもするから」






しくった。

ルイコイツを死神よけにするんだった。

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