No.11 海賊騎士は6歳です。

「お前、海賊のトップにならないか??」


この提案にはそれなりの理由があった。

うちには一番したいことがある。

ご存じのとおり、研究である。

研究の内容によるが、うちの研究には基本実験資料を必要になるため、様々なところから集める。

海も当然その対象に含まれていた。


要するにこの子とコンタクトを取っておけば、ある程度の海の資料が得れる!!


「私がその……お父さんの海賊のトップになれば、お父さんを開放していただくことができるということですか??」

「ああ。しかし、君のお父さんは海賊引退」

「えっ!! じゃあ、本当に私があの海賊のトップになるんですかっ!?」

「ああ、どうだ。いいだろう?」


少女は首をぶんぶん横に振る。


「いやいやいや!? できるわけないです!? 私は凡人ですっ!! あの男の人たちに指示はできませんっ!!」

「私も凡人だが……」

「いえっ!? あなたは凡人などではございません。私、お聞きしました。お姉様方とファッションデザインをなされていたり、今回のように人助けをなさったり。しかも、使用人たちと対等に交流なさっているとか。そのような方は凡人ではなく、聡明なお方です」

「じゃあ、私の友人も聡明だな」

「えっ!? 友人!?」

「そうだ。お前は私の友人だ。今日から王女の友人、海賊騎士だ」

「!?」


悪くないだろ。

海賊騎士って。

あとで、王様おっさんに言うのだけれど。


「今後、奴隷貿易に応じなくなったお前たちの所を襲いに来る奴らがいるかもしれない。まぁ、それの対策の1つとしてな」

「……」


少女は顔を俯ける。


「そういや、お前の名前聞いてなかったな。私の名前はアメリ……」

「知っています!! その取引を応じないとお父さんが助からないんですねっ!! 分かりました!! 取引に応じましょう!! 私の名前はテウタ・ムラカミ!! テウタです!!」


テウタは決意を決めたかのように熱く答えた。


「わかった。よろしくな、テウタ」

「よろしくお願いいたしますぅ……」


ムラカミ……村上?? 海賊??

実在した前世の海賊の名前に非常に似ているんだが…………。

たまたまか。


テウタ・ムラカミ。

この時、彼女がうちにとって重要な人物になるとは思いもしなかった。




★★★★★★★★★★




そうして、話していたうちらはテウタの家に着いた。

そこには以前途中からうちに協力し参戦してもらった海賊たちがいた。


「テウタ様!! どちらに行かれたかと思いましたよ!!」


その中にはあの囮になって叫んでもらったおっさんがいた。


「ロウ、奴隷たちはどこ??」

「えっ?? なんで、テウタ様がそれを……というか、王女さんまで……」

「もう、この海賊が何やったか知ってるのよ……まさかこんな酷いことやっているなんて。奴隷にされていた人たちを解放してあげて」

「でも、あれは親分が……」

「バカっ!! 今日から私が親分よっ!!」

「えっ!?」


テウタの宣言が海賊たちに聞こえたのか、驚きの声がちらほら聞こえる。


「何を言ってるんですかっ!? 親分はクラウス様ですよっ!!」

「お父さんは今日で引退よ。そして、私が海賊のトップで海賊騎士となる」


テウタは練習通り堂々としていた。

さっきまではチキンいや……ひよこみたいだったのだが。


数十分前、うちらはテウタが強そうに見えるように演技の練習をしていた。


「えっ、えっ。そんな口調でロウたちと話すのですかっ!?」

「そうだ。でないと、あのおっさんどもを動かせないだろ」

「動かすって!?」

「トップなのだから当たり前だろ」


テウタの目は涙で潤んでいた。


「そのようなキツい口調で話さなければならないなんて……」


トップになる人は必ずしもキツい口調にならないといけないわけではないが、テウタはうちと同じ6歳。

ただのガキだ。

そんなやつが上に立てば、なめられるか、上手いこと利用されるだけ。

せめて、威厳さがあればそのようなリスクは少し減るだろう。


「きょっ、今日から、わっ、私が親分だっ」

「アハハハ」


テウタの親分宣言にうちは豪快に笑った。

照れたのかテウタはプクーと頬を膨らませる。


「笑わないでくださいっ!! これでも私頑張ってるんですぅ」

「噛みまくりじゃねえーか」

「着くまでにはちゃんと……」

「きょっ、今日から、わっ、私が親分だっ。なめなるっなっよっ」

「最後の方息が切れてるじゃないですか。てか、私のマネをしないでください!!」

「アハハハハ」


という感じで練習していたのだが、本番もきちんとできたようだ。


「海賊騎士っ!? どういうことですかっ!? はっ! まさか、王女あんたが……」


ロウは息を飲みながらこちらに目を向けてくる。


「そうだ。バルバロッサ海賊には奴隷貿易、麻薬売買などは一切やめて、トッカータ王国の海、特にレグルス港周辺の海を守ってもらいたい。他の賊たちを取り締まり、通行料を払わない他の国に属する船は通さないといったことをしてもらいたい」


テウタが海賊騎士になってほしい理由を説明していると、いつの間にかほぼ全員が口をあんぐり開けていた。


「ん?? お前たち、うちの説明が分からなかったのか?? じゃあ、1から……」

「いやいや、分かってるよ。だが、それって、バルバロッサ海賊がトッカータ王国直属の海賊になれってことに……」


あ、

ホントだ。

マジで、王様おっさんとヒラリーに言ってないけど、大丈夫か?


まぁ、怒られてもいっか。


「そうだな、そういうことだ。できれば、うち直属がいいがな」

「なっ」

「ほら、王女直属海賊とかカッコイイじゃん」


そして、海賊たちに奴隷を解放させ、保管していた麻薬も処分させた。

正式に海賊騎士となるのは(多分、なれる)書類を書いてからになるため、バルバロッサ海賊の拠点にしていた建物、船の中のものをガラッと変え、現段階で王女直属海賊?? らしく見えるようにさせた。

これでとりあえずは海賊の件は大丈夫そうだな。

さてと。

もう一ヶ所行きたいところがあるんだが……。

うちらはそれぞれ作業を行っていたため、別の場所で動いていたテウタを見つけた。


「テウタ、そろそろ他の所に行こうと思うんだが……」

「他の所?? 王城ではなくてですか??」


テウタは首をかしげる。


「ああ、クルス家に行きたいんだ。お前も行くか」

「クルス家……今回被害にあった貴族の方ですね。ええ、行きます!!」

「分かった」


ピ―――

口笛を吹くと、どこかに遊びに行っていたサンディがすぐにやってきた。

うちがサンディの上に乗ると、テウタもサンディに軽やかに乗る。


「じゃあ、行くか。あ、ロウのおっさん。今度、一緒に飲もうぜ」

「「飲む!?」」


うちがそう言うと、ロウとテウタは目を丸く見開いていた。

何を勘違いしてるんだ??


「バーカ。ガキだからジュースに決まってんだろ」


中身は30ですがね。

まるで、状況があの名探偵なんちゃらに似ているな、うち。

ロウみたいなおっさんは嫌いではなかったため、いつか長話でもしたいと考えていた。


「じゃあ、おっさん行ってくる」

「ロウ、あとのことよろしく」


うちとテウタは少年ルースの家に向かった。




★★★★★★★★★★




コンコン。

うちとテウタはは大きな屋敷に着くと、大きな扉を叩いた。

事前に少年ルースの家の住所を聞いていたため迷うことなく到着できた。

扉を叩いて少しして、助けたルースとその妹と両親の全員で出迎えてくれた。


「わざわざ王女殿下にお越しいただき申し訳ございません。先日は助けていただきありがとうございました」


ルースの両親は深々と頭を下げ礼をした。

両親に合わせ、ルースと妹も礼をする。

ここは王女モードでないといけないかな。


「頭をお上げくださいませ。4人ともご無事で本当によかったです。あの、よろしければこちらの子をご紹介してもよろしいですか」

「ええ、大丈夫です。そちらの方は……??」

「この子はバルバロッサ海賊の親分の娘です。テウタ・ムラカミです。」


ルースの両親は驚きを隠せず、口に手を当てていた。


「私はクラウス・ムラカミの娘、テウタ・ムラカミです。今回、父があなた方に大変ご迷惑……いえ、危険を及ばせてしまって本当に申し訳ございません。本当にすみません……」


彼女は深々と礼をする。

クルス家があのクラウス親分がやったことを到底許してもらえるとは思わないがな。

実行したのは娘ではないし。

そんなことを思っていると、テウタは頭を下げたまま続けて話した。


「今回の事件のことで父は海賊をやめますが、海賊はなくならず、私が頭領となります。アメリア王女様のご支援の下、我がバルバロッサ海賊が王女直属海賊としていけるよう初めから頑張って参ります。ご理解をお願いします」


テウタは少し震えた声で言った。

テウタが頭領になることはクルス家この方々に理解してもらわないとできないのだ。

つまり、テウタの将来はクルス家にかかっているのである。

すると、ルースの母親が答えた。


「ええ、アメリア様のご支援があるのならば……でもなぜ、アメリア様はそのようなことを……??」

「それはですね……」


うちは先ほどロウに説明したことをそのまま言った。


「つまり、バルバロッサ海賊を改心させるためです」

「なるほど」

「そんで、よければなんだが…じゃなくて、よければですが、将来、クルス家のご当主になられるであろうルース様とお話したいのですが」

「はい構いませんよ」「えっ」


ルースの母親は快く了承したが、本人は驚き戸惑っていた。

一方、妹はニコニコして彼の背中を押した。


「いいじゃないですか、お兄様。あ、申し遅れました。私、ルースお兄様の妹、クリスタと申します。どうぞ、お兄様をお願いします」

「何言ってんだ、クリスタ」

「アメリア様、私も一緒にお話ししてもよろしいでしょうか??」


クリスタは輝いた目でこちらを見ていた。

しかし、そんなことは気にしない。


「ええ、構いませんよ」

「ですってお兄様。じゃあ、お部屋にご案内いたしましょ。ほら、早く」


クリスタは兄の手を引っ張る。

そして、兄は元気な妹に引っ張られるまま連れていかれた。


「ご無礼をすみません。あの子たちはあの日から、アメリア様のことになると上機嫌になりすぎて……。本当にすみません」


母親は我が子の無礼をうちに謝ってきた。


「いえいえ、構わないですよ。元気なことが一番ですから。あの、お部屋に案内してくださいますか??」

「はい、もちろん」


そして、うちらは応接間に案内された。

その向かう途中、テウタが小さな声で言った。


「すごい変わりようですね」

「あ゛あ??」

「あ、元に戻りましたね」


ったく、王女モードが維持しづらいじゃねーか。

いじるのやめろ。

と心の中でテウタを叱っていると、部屋に着いた。


「こちらになります。ごゆっくり」


両親は気を利かせたのか、うちを含む子どもたち4人だけにしてくれた。

うちは少し空いていた扉をしっかり閉め、王女モードをオフにした。


「なぁ、ルース。お前、妖精と会話できるのか??」


さぁ、取引2回目の始まりである。

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