EP.11 幼馴染のキモチ


 えっ。ちょっと待って。

 私は今、夢を見ているの?

 みっちゃんが、私に腕枕してくれるって言ったんだけど?


 普段は私の必死のアピールを断固拒否する姿勢なのに?

 どういう風の吹きまわし?


 嬉しい。すっごく嬉しい。


 ようやく想いが伝わったのかな?応える気になってくれたのかな?


 小っちゃい頃からずーっと好きで、その気持ちを隠さないまま傍にいる。

 それなのに、みっちゃんはなかなかツレないとこがあった。

 そんなみっちゃんにヤキモキしたり、『どうして?』って悩んだりすることも多かったけど、私は諦めなかった。

 だって、『好きな子ができたら絶対に手放しちゃダメ』ってお母さんにも言われてるし。

 だから、今日だって初めて家にお呼ばれして、いつもより頑張ってアプローチしてみたの。


 そんな想いが、今日、ようやく……!


「みっちゃん……ほんとにいいの?」

「ああ」


 みっちゃんが……私のすぐ傍で、こっち見てる!目を細めて僅かに微笑んでる!


 あああ!大好き!


 でもでも!いつもがんばってみっちゃんにアプローチしてる割に、いざ『いいよ』って言われると、ドキドキしちゃってどうしよう……


 顔が熱い。口元緩んでないかな?私いま変な顔じゃない?


 そんな想いがぐるぐると頭の中で渦を巻く。

 両手で頬を抑えて自分の熱を確かめていると、みっちゃんは不意に口を開いた。


「咲愛也、おいで」

「――っ!」


 そ、その顔……優しい表情……『おいで』っていう穏やかな声……!


 私の嬉しい気持ちは何かの限界を超えた。

 もう顔の緩みなんて気にしてる余裕もなくみっちゃんの腕にぎゅっと飛び込む。


 この嬉しい気持ちが、少しでもみっちゃんに伝わればいいのにな。


「えへへ……」


 にこにこしながら身体をすり寄せていると、みっちゃんは静かに告げる。


「咲愛也、おやすみ」

「えっ?」


 私の頭上でみっちゃんの喉が動いたかと思うと、ことり、と頭が枕に沈む。


「みっちゃん……?」


 え、ひょっとして本当に寝ちゃったの?


(ええぇ~……)


 それはないよ、みっちゃん!


 仮にも私達青春真っ盛りな高校生だよね?

 私って、そんなに女の子として魅力ない!?


 こう見えて、お母さんみたいにスタイルが良くなるようにこっそりバストアップの体操とかマッサージとかしてるんだよ?

 だって、みっちゃんに『可愛い』って思われたいんだもん!みっちゃんは優しいから私のこと『可愛い』って言ってくれるけど、それに甘んじてるようじゃダメなの!もっと努力してもっと可愛いって思われたいの!

 というより、好きになって、欲しいのに……


 それなのに……


「ねぇ、みっちゃん起きて?」


 ちょっとくらい、触ってよ?


「ねぇってば……」


 ゆさゆさ。


「すぅ……」

「…………」


 ダメだ。完全に寝ちゃってる。


「どうして!?」


 お母さん、『男の子なんて身を寄せてすりすりしちゃえばイチコロ』って言ったよね!?それ、イチコロなのってお父さんだけだったんじゃない!?


「もー!みっちゃんの頑固!わからず屋!不感症!みっちゃんなんてキラ――」


 ――イになるわけない。うん。


 私は冷静さを取り戻した。


 考えを改めよう。寝ちゃったみっちゃんに怒ってもしょうがないよね?

 ここは、この場を楽しむことに切り替えよう。


 私はスマホを取り出して無音カメラを起動させ、みっちゃんの寝顔とツーショットを撮った。


「…………」


 うん。よく撮れてる。

 みっちゃんて起きてるとかっこいいけど、寝てると可愛いんだよね。

 よく見ると睫毛が長くて、やっぱお母さん似じゃないのかな?


「うーん、どうしよう。とりあえず典ちゃんにお礼のメールして……」


 ――よし。メールも送ったし、もう少しみっちゃんと遊ぼうかな?


「すぅ……」


 うん。やっぱ寝顔神だ。

 でも、小っちゃい頃からこの寝顔を見てきた私は、もっと素敵なことを知ってる。

 今日はもう少し楽しませてもらっちゃおう。


 私はみっちゃんと向き合うように体勢を直すと、ベッドに接しているみっちゃんの左脇腹をつついた。


「えい」


「――ん……」


 くすぐったいのか、無意識にもぞもぞとするみっちゃん。


「えい、えい。こちょこちょ……」


 私はその調子で左の脇腹と脇の下あたりをくすぐる。


「んん……」


 みっちゃんが動いた。よし。


 私は横向きの体勢からうつ伏せになろうとするみっちゃんの下に素早く潜り込む。

 そうするとどうなるか。


 みっちゃんが私を抱きしめてる感じになるのだ。


「ふふふ……!大成功……!」


 脇の下から手を滑り込ませ、肩の辺りをぎゅっと掴む。ちょっと体重がかかってずっしりとする感じもイイし、なによりぎゅっとしてあったかい。

 それに、お楽しみはこれからだ。


「みっちゃん、いい匂いがする……」


 首筋に顔をうずめると、ウチのボディソープの香りに混じってみっちゃんの匂いがする。なんだか落ち着くいい匂い。男の子の割に匂わない方だとは思うけど、この匂い、すごく好き。

 それに、こうして顎下のあたりに頬をすり寄せると――


「ん……」


 ――キタ!


 みっちゃんは寝ぼけて私を抱き締め、頭のあたりに頬ずりをしてきた。


「これこれ……!」


 みっちゃん、実は抱き枕が無いとよく寝れない派なの。

 ふふ。今日は私が抱き枕……!


「んん……」


 すりすり。


(きゃ~!!可愛い!!)


 みっちゃんのこんな姿知ってるの私だけ――(あ、典ちゃんもか。)と思うと感慨深い。


「はぁ……みっちゃん……どうしてこんなに可愛いの?」


 こうして隣で寝るとき、だいたい私がこういうイタズラしてるって全然気づかないとこもまた可愛い。

 起きたとき私のことぎゅっとしてて『あれっ?』てなるキョトン顔もたまらない。

 そそくさと起き上がって見なかったことにするとことかね。実はバレバレなんだよ?


「はぁ……好き……」


 どうすれば、振り向いてもらえるのかな?

 どうすれば、もうちょっと進展できるかな?

 どうすれば、ずっと傍にいてくれるかな?


「ずっと、傍にいて欲しいよ……」


 そのとき、私はお母さんの言葉を思い出していた。


『ずっと傍にいて欲しい。そんな人が、咲愛也にもできるといいね?』

『もしそういう子ができたら――』


 ――絶対に、手を離しちゃダメよ?


「うん……」


 私は抱き締める力の弱まったみっちゃんの片手をぎゅっと握った。

 そうして、心の中で呟く。


 ――絶対に、離さない。離さないからね……?

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