第3話オンシジューム2

HRが終わり彼女は質問責めにあっていた。

転校生の宿命だろう。

周りを取り囲むクラスメイトが邪魔くさい。

そんなお祭り状態も昼休みには終息していた。

彼女は質問に対して素っ気なく返していたので流石に察したのだろう。

昼はいつも1人で食べる。

校舎裏にある人気のないベンチ。

ここが一番落ち着く。

パンを口に運ぶと手からはかすかに昨日の匂いがした。

今まで摘み取ってきた頭が無造作に置かれた灯台の下。

灯台の光は灯っていない。

まだ進路は決まっていないらしい。

あと何人で満たされるのか。

それたもこの闇は満たされることがないのか。

深淵に佇む灯台の扉の前には誰かが立っている。

「あなたを殺せば光は灯る?」

顔の見えないソレが笑っているように見えた。

ナイフを首めがけて刺そうとしてもソレには届かない。

私は薄氷に包まれたように凍りつき動けなくなった。

ソレは私を嘲笑うかのように扉を開けていなくなった。

足元に転がった頭がケタケタと私を笑う。

摘み取ってきた彼らの唯一の私への復讐なのか。

見えなくなったはずの双眸に写る私はどんな顔をしているだろうか。

「私もそっちに行けばわかるかしら?」

そう呟くと彼らは土の中に消えていった。

「篠崎さん?」

私は一気に現実に引き戻された。

振り向くとそこには久瀬ゆうきが立っていた。

「大丈夫?魂が抜けたみたいな顔してたから。」

ハリボテのように作られた笑顔は気味が悪い。

「ええ、平気。それより何人目ってどういう意味?」

そう聞くと彼女の顔のハリボテは崩れ落ちてあの時の冷たい瞳が私を縛り上げた。

「目が合った瞬間にわかったの。ああ、この子は同類で私よりも深いところの住人だって。」

彼女の言葉は生臭かった。

ああ、ホンモノだ。

「私は今10人。でも数が増えるたびに深く潜れなくなる。潜ろうとすると強制的に引っ張りだされる。あなたもそのうちそうなる。」

それを聞いた彼女は私への哀れみに満ちていた。

「可愛そう。私と一緒ならあなたらもっと深く潜れる。放課後空いてる?」

断れなかった。

今より深い場所を求める私は彼女の磁力に逆らえなかった。

「それじゃあ、放課後お話ししましょう。」

そう言うと彼女はハリボテを作り直し去っていった。

今の環境を壊される気がする。

それでも私は深淵を求めずにはいられなかった。

一度染まった心はそう簡単には掬い出せない。

灯台の扉が開いた気がした。

薄い光が私の道を示した。

まだ不安定で曲がりくねった光。

それでも確実に向かう方向を示している。

あの女に舵を取られるのはごめんだ。

私の道を示さなくては求める場所には行けない。

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