第94話 地下牢

「タリスさん…」

「…」

「どうですか」

「…」


タリスが頭を抱えた。

アリシヤも頭を抱えた。


ロセに呼び出されたこの機会に二人はルーチェ救出作戦を決行していた。


もともと夜間に城に入るには理由がいる。

特別な用がない限り入れない。

それをカルパがなんとか通してくれた。


夕刻のリベルタの言を思い出す。


ルーチェは直に狂う、と。


一刻も早く助けないといけない。


城の奥にそびえる今は使われない塔。

かつて、教会が自衛権を持っていた頃に使われていた牢だ。

今は用無しとなり、使われていない。


リベルタは言っていた。


国の管轄ではなく、リベルタ自身がルーチェを管轄すると。


その言葉からラナンキュラスは推測した。

塔の牢は、権力者が時に秘密裏に罪人を括り付ける場でもあった。

勇者であるリベルタが使うならこの塔だろうと。


塔に入る。壁一面の牢。


小さくて狭くとても人間が入れられていたとは思えない。

こんなところにルーチェが入れられていると思うとぞっとする。


「アリシヤちゃん。こっちだ」


タリスの言葉にアリシヤは頷く。


塔の中で一番堅牢な場所。

それは、地下牢だという。

隠し事をするにはぴったりだとラナンキュラスは言った。


地下への扉を開け、階段を下っていくと、廊下に出た。

土臭く湿っぽい。

左右にある牢は空っぽだ。


だが、一番奥に扉があった。


アリシヤとタリスは顔を見合わせて頷く。


最深部にある鍵付きの牢。

そこに幽閉されているだろう。


ラナンキュラスは言った。

そして、したり顔で彼は物置から古びた鍵を取り出した。


「なんと、そこの鍵がここにある」


だが、お分かりのとおりである。

開かない。


「ジジイがこの城を出てもう数十年だもんな」

「鍵ぐらい変わりますよね」

「扉破るか」

「鉄ですよ」


アリシヤは扉を強く押してみるがびくりともしない。

みしりと小さく音を立てただけだ。

その時、中から小さな音がした。

金属の音だ。


アリシヤははっとした。


「ルーチェ?」


呟いたその口をタリスにふさがれる。

タリスが人差し指を立てる。


「誰か…来てる」


小さくタリスは言った。

アリシヤは戦慄した。


来ると言えばリベルタか。

いや誰であれここにいることがばれるのは困る。

だが、ここは塔の最深部。逃げ場はない。


アリシヤは剣の柄を握った。


階段を下る足音が近づいてくる。

心拍数が上がる。


ここで切り捨てられるわけにはいかない。


手に力がこもる。


「え、ええ⁉」


近づいてきた人物が素っ頓狂な声を放つ。

アリシヤは目を見張る。

そして向こうも目を見開いている。


「アリシヤ。タリス君?」


階段を下りてきたのはフィアだった。

まごつくフィア。

そして焦るタリス。


「ふぃ、フィア女王⁉どうしてこんなところに」

「それはこっちのセリフだわ!」


そういってフィアは口元を押さえる。

上をうかがうと、いつものドレスとは違うラフな服のポケットから鍵を取り出した。


「中で話しましょう」

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