第13話 かがりの前世は、実に楽しませてくれそうだ

「マリア、落ち着いて!」

 セイが声を荒げて、マリアを叱責した。

 マリアが過去の世界で一悶着おこすのには慣れていたが、今日はそんな茶番には付き合っていられなかった。

 その怒気を含んだ声色に、マリアはたちまちしゅんとした。

「すまん、セイ」

 そういうなり、マリアは大剣を事も無げに持ち上げると、背中に背負った専用のおおきな鞘におさめた。


 セイがまだ警戒の色を解けずに、刀を前に突き出して身構える森坊丸と力丸のほうへ一歩踏み出すと、頭をさげた。

「仲間が大変失礼しました」

 坊丸と力丸が目配せをするのを無視して、セイが話を続けた

「ぼくの名前は夢見聖といいます。ちょっとお尋ねしたいのですが、今は何年で、ここはどこか教えていただけないでしょうか?」

 そう尋ねていると、セイの背後からエヴァのはしゃいだような声が聞こえた。

「まぁーー、かがりったら、こんな『時代』に来ちゃってるんだ」

「エヴァ、どうやら、今がいつか、わかったみたいだな?」

 マリアがエヴァに問いかけると、「えぇ。ほら」というなにかを指し示すようなやりとりがあったのち、マリアがセイにむかって声をあげた。

「セイ、今がいつかわかったぞ」

 セイはまだ警戒の色をあらわにしている坊丸と力丸から目を離さず、マリアに尋ねた。

「マリア、教えてくれ。今は『いつ』だ」


「さぁ、いつかは詳しくは知らん……だが、ここは『本能寺』だ」


 そのことばに思わず、セイはうしろを振り返った。

 正面の門の『本能寺』の表札が掲げられているのが見えた。


 マリアが口元をゆるめて、実にうれしそうに言った。

「セイ、ついてきて正解だな……。かがりの前世は、実に楽しませてくれそうだ」


 セイはマリアのことばを無視すると、坊丸たちのほうに向き直って言った。

「お侍さん。ぼくらを織田信長さんの元へ案内してください」

 たちまちわかりやすいほどに二人の表情が豹変し、それまで以上に緊張の色が強くなったが、セイには彼らの立場を忖度そんたくしている暇はないと判断した。

 セイは大声で叫んだ。 

「いそいでください!」


「もうすぐここは『明智光秀軍』に取り囲まれます……」

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