13 魔女
リースとルルリアナは真夜中に行動を開始した。
護衛兵に神殿で神に懺悔したいと告げると、彼も納得したのか何も言われず神殿まで付き添ってくれた。神への礼拝はルルリアナの日課に組み込まれていて、誰も不審に思わなかったのだ。
ルルリアナの服は全身を覆った白いマントで隠されている。
少し歩いただけで、ルルリアナ専用の小さな神殿に到着する。
神殿の飾りは創造神「ロクストシティリ」が剣を携えている石像しかない。ただ石の冷たさと神の威信しか感じない。
この神殿でルルリアナは毎日氷のような床に跪き、長い時間世界の平和を神に祈っていたのだ。
護衛がゆっくりと扉を閉めると、ルルリアナが「施錠」の魔法陣を展開する。結界を無理やり破らない限り、ルルリアナが許可した人物しか中に入れない。
「それでこれからどうなさるのですか?」
リースは南側の壁面を何かを探すように手探りしている。
「…確かここら辺だったと思うんだよね。ゲームでは…そうそう、このレンガを押して右に回すと…」
ゴゴゴゴゴという、重たい石が動く音が聞こえたかと思うと、礼拝堂の床に小さな階段が現れる。
「…これは何なのですか?」
手に持っていた蝋燭で現れた階段をルルリアナは覗き込む。
階段は人ひとりがやっと通れる幅しかなく、ろうそくの火で照らしても底が見えない。
「この下に私たちを助けてくれる秘密兵器が隠されているの」
「秘密兵器」
「そう、古の魔女がね」
リースが先頭になり螺旋階段を下っていく。
水滴が落ちる音や、わずかな風がかび臭い匂いを運んでくる。何かの生き物が地面を這う気配がして、何か人ではない眼に見つめられている感覚が全身を襲う。
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫、しっかり封印されているからね…今は」
「封印?」
「そう封印。ここには青と赤の魔女が封印されているの」
「青と赤の魔女?」
「ルルリアナは教えられていないと思うけど、大昔に世界を破滅寸前まで追い込んだ魔女がここに封印されているの」
「もしかして、リース。その魔女の呪いを解くつもりですか?」
「そう、そのつもり」
「リース!それはとても危険です。辞めましょう」
「大丈夫。二人の魔女は創造神であるロクストシティリに封じられて、主人となった人間には逆らえなくなっているの」
「では、なぜ封印されたままなのですか?」
「う~ん、みんなまだそのことを知らないの」
「知らない?」
話しているうちに大きな空間にたどり着く。そこには何も置かれておらずただ闇が広がっているだけだ。
「リース?何もないみたいだけど」
「上を見て」
リースが天に向かって蝋燭の火を翳す。
小さな細い蝋燭の火が照らす先には、ボロボロになった十三本の剣が円を描くように浮かんでいる。その中心には、剣に心臓を貫かれぐったりとしている女性がいた。女性は蒼い雪の結晶がモチーフのレースがかけられており女性の顔を見ることはできないが、どうやらレースの下は裸のようだった。
暗闇に目が慣れると、串刺しになれた女性の奥にうすぼんやりとした数多の火が見えた。
ルルリアナは奥を見ようと近づく。
小さな火の正体は蝋燭の火だった。
大きな雪の結晶のモニュメントに先ほど蒼いレースに似た赫いレースで顔を隠された裸の女性が、たくさんの火がつけられた蝋燭に囲まれている。女性はモニュメントに磔にされているかのように四肢を広げ、首は力なく項垂れている。
ルルリアナはその蝋燭に見覚えがあった。
赤い模様が描かれた蝋燭はルルリアナが日課のひとつとして火を灯している「封印」の刻印が施されている蝋燭だったのだ。
「あの蝋燭…」
「そう、魔封印の強力な呪いが施されている蝋燭。『赫き魔女』を封印している聖なる火を灯すためのね。そして、あっちの女性は『蒼し魔女』。聖剣で封印されているの。周りの剣は蒼し魔女と戦ってボロボロになった聖剣の亡骸」
「蒼し魔女と赫き魔女…」
「そう。この二人が私たちのチート能力ってこと」
「でも、世界を滅ぼそうとした恐ろしい魔女なんでしょ?」
「そうだね。蒼し魔女は地獄から冥界から魔物を召喚してこの世界を魔物で満たし、赫き魔女は太陽を近づけこの世界から雨を消したとされているの」
「雨?」
「空から降る大量の水ってこと。赫き魔女が天を支配する前は大陸に雨が降り、緑を満たしていたんだって」
「そんな恐ろしい魔女を開放して、私たちが無事だとは思えませんけど…」
「大丈夫、私を信じて」
リースは真剣な顔でルルリアナを見つめる。
「お願い、ルルリアナ。あなたを死なせたくないの」
「私が死ぬ?」
「…………このままここにいたら、あなたの心が死ぬってこと」
「…そうですね、ここにいた私はきっと息をしているだけの人形だったと思います。今もそうかもしれません。でも、世界が滅びるなら、私はここにいます。」
「私は世界よりもルルリアナ、あなた一人だけを助けたい」
「…でも」
「本当に大丈夫。大丈夫だから私を信じて?世界も滅ぼさせない。この心臓に誓う」
ルルリアナはリースの目を見つめる。
リースの目には自信しかなく、すべてうまくいくと物語っている。どこからその自信がきているのかわからないが。
でも、ルルリアナはリースを信じることにした。
ルルリアナも心の中でリースが信頼できると知っていたから。
「わかった…。あなたとの付き合いは短いけれど、あなたを信じます」
「ありがとう」
リースは安心したように肩の力を抜いて微笑む。
「じゃあ、二人の魔女を開放するとしますか」
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