第30話 プール③ 一件落着☆
「おーおーキミたちカワイイねぇ。どう、これからオレたちと遊ばない?」
「おっ、ジュース持ってるじゃん! つーことは誰かと一緒? 女友達なら大歓迎だよん♪」
「しっかしまぁ近くで見るとマジで綺麗じゃん。もしかして他の男もいる系? まー俺らには関係ないけどさ」
「………(ニヤニヤ)」
ピアスやサングラスをしたチャラそうな四人組の男たちが話しかけてきたのだ。所謂ナンパという奴だろう。急なことに思わず固まるが、小梅と視線を交わすと少しずつ男たちから離れる為に横にずれていく。
「あれあれどうしちゃったぁ? お兄さんたち怖くないよ~」
「そうそう、なんならこれから気持ちいーことしてあげるよん♪」
「け、結構です………っ」
男たちによるナンパに何とか声を振り絞るが、突然の事なので警戒心を高める。前が塞がれている形なのでこのまま少しずつ怯えたふりをして、人混みの少ない所まで行けば逃げる隙が出来るだろうと考えた美雪。
正直に言うと怖くないというのは嘘になる。それでも年上としてなんとか小梅と一緒にこの状況からどう逃れようかと虚勢を張っていた。
「………きもっ」
「しっ! 本当の事だけど今刺激したら何してくるか分からない。一旦ひとけの少ない所まで引きつけてから隙を突いて逃げようっ」
「わかった………」
嫌悪感丸出しで睨め付けながら小さな声で本音を漏らす小梅だが、美雪に小声で注意されたことによって怒気が弱まる。僅かに、だが。
美雪も小梅同様の雰囲気や視線で何とか牽制しようとするが、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべているチャラ男たちはそんな態度に構うことなく二人に近づいていく。
「なんか初々しい反応じゃ~ん♪ なに、ひょっとしてキミたち
「………っ」
「っかー、おいおい俺らツイてるわ、こんな可愛いのがまだ男の味を知らないとか―――すっげぇそそるじゃん」
「ち、ちかづかないでっ………大声叫ぶわよ………っ!」
全身を舐め回すようなぎらぎらとした視線にぞくっと寒気が走った美雪。今まで感じたことの無かった危機感が自分に降りかかっている事を改めて自覚した彼女は、恐怖から言葉の端々が震えていた。
精一杯声を振り絞るが、この迫り来る男たちの表情に変化はない。むしろ、その気持ち悪い笑みをより深めていた。
―――そして、気が付いた時には壁際まで追い込まれていた。
「………っ、う、そ」
「美雪ちゃん………!」
「お~っと気が付くのが遅かったねぇ、ここって建物の日陰になっててあまり人が寄り付かないんだわ。おいお前ら、ちゃんと見張ってろよ」
「わーかってるって。その代わりそっちの娘あとで俺らに回せよ。さって、俺はこ~の娘~♪」
「おいずりーぞ!」
「うっせ」
舌なめずりをしながら手を伸ばしてくるチャラ男に悲鳴を上げる美雪。小梅に至っては無表情を貫いてはいるが、僅かに目尻に涙を浮かべていた。
声を震わせながら涙混じりに呟く。
「い、や………っ、暮人ぉ、たすけてぇ………っ!」
「にいに………っ」
「はいざんねーん。助けなんてきませ―――」
チャラ男が最後まで言葉を紡ごうとしたその瞬間、とても軽快な足音が聞こえた。その正体は―――、
「てめぇら二人に何してんだこらぁぁぁ!!」
「「「「ゴフッ!!!!」」」」
暮人による跳び膝蹴りが美雪の胸に触ろうとしていたチャラ男にクリーンヒット。まるでボウリングのように他の三人を巻き込んだその威力は走ってきた事により勢い付いていた。
綺麗に着地した暮人は慌てた様子で美雪と小梅に声を掛ける。先に走ってきて良かった、と安堵しながら。
「美雪っ、小梅っ! 大丈夫だったか!!」
「にいにっ!」
「く、暮人………っ。うん、大丈夫だったけど、すっごく怖かったよっ………! でも、どうしてここが………?」
「あぁ、待ってたんだけどなんだか嫌な予感がしてさ。それであちこち探し回ってようやく見つけたってわけだよ。それに聖梨華さんも―――」
『誰か助けて下さーーいっ! 女の子をムリヤリ襲おうとしたド畜生がここにいまーっす!!』
離れた所に居るチャラ男たちにスマホを構えた聖梨華が大声で呼び掛ける。ここは人気のない日陰だが、流石に誰かが来るだろう。そう思っていたのだが、
『呼んだかい、お嬢さんっ!!』
「誰だっ!!?」
『マッチョメン五人衆だよっ☆』
筋肉ムッキムキの五人の男性がそれぞれキラキラと笑みを浮かべてポージングをとりながら聖梨華の呼び掛けに応えていた。まるで戦隊モノのように並んでいるが、その背後から後光が差しているのは気のせいだろうか。
思わずの展開に素っ頓狂な声を上げてしまった暮人だが、スマホを構えていた聖梨華が暮人達に近づいてきて説明する。
「説明しましょう! 簡単に言うならば、友達同士で遊びに来ていたムキムキなホモいお兄さん方が近くを歩いていたので女神の力を使ってここまで誘導したのですよ!」
「うわぁ、えぐい………」
「こんなに人気のレジャー施設なのですから
どこか含みのある言い方だったが確かにその通り。こんなに多くの人が来るのであればそういう人がいてもおかしくはないのだろう。
暮人が納得していると、マッチョメン五人衆の一人から話しかけられた。
「なぁそこのキミ、お嬢さんの叫び声が聞こえてここまでやって来たんだが―――もしかしてあの美味そ………チャラそうな男の子たちが原因かな?」
「………っ、は、はい………! そうです!」
「はっはっは、そうか! ならば私たちが
『異議ナシっ!!!』
「と、いうわけなのであとは任せてくれ☆ それでは行こうか」
そういうとマッチョメン五人衆はそれぞれチャラ男の体を軽々とお姫様抱っこで持ち上げると去って行った。「さぁ、ひと夏の忘れられない熱血指導をしてあげよう!」「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」と聞こえたのは幻聴だろうか。
そういうことにしよう。
まるで嵐のようだったと暮人はほっと息を吐く。改めて二人に向き合うが、彼女らの様子がおかしい。
「ど、どうした………っ!」
「暮人ぉ………! わたし、怖かったよぉ。あのままあいつらにどうにかされていたと思うと………! 暮人が来てくれて、すっごく嬉しかったぁぁぁぁ!!………大好きだよ暮人ぉぉ」
「にいにぃぃぃ!! こうめもぉぉぉぉ」
大粒の涙を見せる二人から抱きつかれた暮人は正面から抱きしめる。二人分の体温を感じながら、落ち着かせる為に、ぎゅっと。
よしよし、と頭を撫でると暮人は言葉を紡ぐ。
「本当に、間に合って良かった。俺も大好きだよ、二人とも」
泣いている美雪と小梅はその言葉に気が付かない。だが暮人のその純粋な想いは、偽りない本音だったのは確か。
「さっすが、勇者様ですねぇ………ですが、これで一件落着ですね」
二人が持っていたジュースを全て預かり、器用に抱えていた聖梨華は静かにそう呟いた。
―――そう、『一件』落着ということは、また次なる騒動が起きる可能性があるということ。
そして聖梨華は、自らそれを起こそうとしていたのだった。
因みにチャラ男たちはマッチョメン五人衆により、心も身体も調教されたのは余談である。
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