第24話 ジャンケン② これが、おっぱい魔人のちからなの?





 リビングのソファに座りながら彼女らは夏休みの課題の事や部活、最近の話題などを話してはいたが、相変わらずといっても良いのか美雪との会話はどことなく気まずい。恐らく、この雰囲気は聖梨華や小梅にも伝わっているのだろう。さっきのジャンケンの提案だってそうだ。『とりあえず腹ごしらえですね! うまうま』と言うと女子同士の会話に華を咲かせていた(因みに俺は少ししたら台所でゼリーを作った容器の片づけなどをしていた)。


 コーヒーゼリーを全て食べ終え、飲み物の量も半分を切った頃。コップの周りに付いている水滴を見つめていると、先程の話の続きが述べられた。



「さて、さっき私が言ったジャンケンというのはただのジャンケンではありません」

「何か特別なルールがあるジャンケンなの?」

「ふっふっふ、ででーん! その名も『具現化ジャンケンぐーちょきぱー! ~男を巡る仁義なき戦いがいま、始まる~』ですー!」

「何その妙に長いサブタイトル!?」



 美雪の問いに得意げに答える聖梨華。

 彼女の目的とそのタイトルからして非常に物騒な響きがするのだがどうなのだろう。というかそのサブタイトルいる?



「ふっ、百聞は一見に如かずです! 女神フィールド展開!!」

「ちょ………っ!」



 聖梨華がパチンと指を鳴らした瞬間、彼女を中心に暖かい光に包まれた。すると、目が覚めたときには変わらぬ自宅のリビングにいた。



「………? 何も変わってないけど」

「ところがびっくりスマホを確認してみて下さぁい!」

「………あっ、く、暮人! ここ圏外になってるよ!」

「え………っ! あ、本当だ! なんで?」



 慌てた美雪に言われてスマホを確認すると確かに『圏外』となっている。電波障害ならばともかく、普通ならば自宅にいるのにこうはならないだろう。

 すると、ちびちびオレンジジュースを飲んでいた小梅が可愛らしい声である事を呟いた。



「………これが、おっぱい魔人のちからなの? 女神としての」

「お、おぱっ………!? そ、そうなのですっ! 私の力で辺り一帯を疑似空間にして、私たちだけがここにいる状態ですね! 範囲的には街全体といった具合で、簡単に言えば疑似空間を作って、そこに私たちが転移したと説明した方が分かりやすいでしょうか!」

「あっ、それは大丈夫なんだ」



 異世界に転移すれば即死という話だったが、どうやら聖梨華が作った女神としての空間はそれに当て嵌まらないようだった。

 それよりも、



「というか小梅、聖梨華さんが女神だって知ってたの?」

「ん、にいにが『回避』の特性を持ってることも、ね。初めは全然信じられなくて頭が沸いてるのかなって思ったけど、家に来る途中、空間転移ワープしてきたから信じるしかなかったの」

「うん、聖梨華さんに対してその言葉はどうかと思うけど可愛いから許しちゃう。でもそうだったんだ。もしかして、聖梨華さんが俺の命を狙ってることも………?」

「………うん」



 そう返事して俯く小梅にそっかぁー、と内心複雑な表情になる暮人。兄としては妹である小梅を転生云々うんぬんの話に巻き込みたくはない。

 聖梨華に限って大事な妹を巻き込むようなことはしないと思いたいが、以前美雪を人質をした事案もある。



「………にいに、死なないで? どっかいっちゃやだよ」



 うるうると小梅が上目遣いで見つめて来た。マイエンジェルからのお願いがキター!! よっしこれはもうなんとしてでも死ぬわけにはいかない。もし小梅が巻き込まれる様な状況になったら全力で小梅を守ろうと思う暮人であった。


 ぷるん、と胸を張った聖梨華が絵の描かれたプレートを持つ。



「さぁさ、ルールの説明をしましょっかねぇ! まず『具現化ジャンケン』というのはその名の通りグー・チョキ・パーの三手を具現化して戦う勝負です。この箱の中にランダムのジャンケンカードが入っていますので一人一枚引いて貰い、その絵柄に描かれている三手の内一種類を自分の『従属手サーヴァント』として扱います」

「グーチョキパーの各種が人間サイズに巨大化&背後に控えて操る感じかな? あと『従属手サーヴァント』ってなんかカッコいいけどそれって異世界そっちの言葉?」

「アニメや漫画の言葉をなんかイイ感じにもじりました!」



 可愛らしく舌を出す聖梨華だが、気を取り直したのだろうか話を戻した。



「さて、皆さんもご存じの通りジャンケンは勝敗の相対図が明確ですが、今回に限ってはそれはありません」

「氷石さん。それってつまり、例えばグーとパーを出してもグーは負けないって事?」

「その通りです! じゃあ何で勝敗を決めるのかって思いましたよね? ヒントはサブタイトルです!」



 元気よく答える聖梨華の言葉に先程の会話を振り返る。確か、サブタイトルというと―――、



「『男を巡る仁義なき戦いがいま、始まる』だったよね。男、というとこの状況でいえば暮人のことかな?」

「はい! これでだいたいお察しだとは思いますが、要するに具現化ジャンケンを使った女三人による如月さん争奪戦ですー! ドンドンパフパフー!」

「あっれ俺の立場は!?」

「囚われの姫的な感じですかね?」

「勇者じゃないの!?」



 細かい事はこの際気にしないことです、と何故か聖梨華に宥められると言葉を続けた。



「ルールの続きですが、勝敗のカギを握るのは『如月さんへ秘めている想い』です。それは好意・恨み・怒りなど………彼に対しての喜怒哀楽のうちなんでも構いません。自分の『従属手サーヴァント』の大きさや質はそれで決まります。そこは感情論なのです! カードの絵柄やその身に秘めている気持ちが具現化するからこその『具現化ジャンケン』。そして肝心の勝利条件ですが、如月さんとの身体的接触を一分間続けることが出来たら勝利! 握手とか抱きしめるとか! そして敗北条件はその『従属手サーヴァント』からの攻撃を身体で三回受けてしまったら、です。強制的に現実世界に転移されます」

「な、なるほど………。『従属手サーヴァント』で暮人との接触を妨害しても良し、誰かを狙っても良しって事だねぇ。でも『質』ってどういうことなの? 頑丈になるとか?」

「うーん、衝撃波とかビームが出るんじゃないですか?」

「雑っ!」



 聖梨華の返答に思わず突っ込んでしまった暮人。そこで考えるのは、自分はどこにいるべきなのかということだ。



「聖梨華さん、そういえば俺は何をしてれば良いの?」

「あぁ、そうでしたね! 如月さんは、私たちが通う高校のグラウンドの真ん中にぶっ刺さってる大きな棒にぐるぐる巻きで縛られていて下さい! 開始後に私たちはランダムにこの街のどこかに転移されますので、接触チャンスを虎視眈々と狙ってますよー!!」

「ちょっと待ってさらっと酷いこと言ってない!?」

「さぁさ、皆さんこの箱の中から一枚だけカードを引いて下さい! あ、因みに審判は天照ちゃんにお願いしてますので、ずるい事とかしちゃダメですよー」



 それぞれがカードを引くと小梅がチョキ、美雪がパー、聖梨華がグーだった。

 心境は複雑であったが、これは命を狙われている訳ではなくただのゲーム。聖梨華が提案したので不安は残るが、ゲームである以上さすがに妹までも巻き込んだりはしない筈。


 そして恐らく俺が『回避』の特性を使ったら縛られることは無いのだろう。………が、まぁ難しい事は考えないようにしよう。


 今回は『回避』せずに素直にそれを受け入れる事にした。



「これも言ってませんでしたね。勝利条件を満たせるのはただ一人。勝利した暁には―――『如月さんと何でも出来る権利』を差し上げます! 良いですよね、如月さん?」

「はぁ………勝手に決めるのはどうかと思うけど、夏休みだからなぁ。出来る範囲でなら良いよ」

「さっすが如月さん太っ腹! じゃあ皆さん、準備は良いですか?」

「良いよ………絶対、負けない」

「ん、想いなら自信はある。妹パワー………!」



 みんなのやる気が漲ってるけどそんなに俺を好き勝手に権利欲しいの? と思う暮人。しかしこれはゲームと言えど勝負事。

 その権利に需要があるのかよく理解していなかったが、もし勝った人には精一杯付き合ってあげようとしみじみ思う暮人であった。



「それではいきます! 勝負、開始ぃぃぃぃぃ!!!」



 聖梨華が右手を上げた瞬間、視界がブレた。



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