相 思 相 愛

男 A

『死にたいけど死ねないの。』君は目に涙をいっぱい溜めて僕にそう言った。僕は何も言えなくて、ただ、ただ、流れる涙を見つめることしかできなかった。


君のことを悪く言う奴なんて居なくなればいい。君の邪魔をする奴なんて消えてしまえ。君は僕がいればそれでいいだろう?君はよく僕に言うんだ。こんなつまらない世界なんか無くなればいい、ってね。僕はきまって、そうだね、としか言わなかった。僕は君がいるだけで、世界が美しく見えるのに。

私のこと君しか理解してくれない、って泣きついてきたこともあった。僕は君のことを抱きしめながら、大丈夫だよ、って言ったんだっけ。君の笑顔が見たくて、君のたった1人の味方になりたくて。『君の生きる意味』になりたくて。もっと僕に依存しなよ。僕がいなきゃ生きられないって言ってよ。僕がいるから生きてられるってさ。


君から、『死にたい』と言われるなんて思わなかった。僕がいるから。僕がいるのに、君は死にたいと思うの?信じられない。信じたくない。頭の中ぐちゃぐちゃの僕に向かって君はさらに信じられないことを言った。

『一緒に死んでくれない?』

何を言い出すんだ、とは思わなかった。むしろ嬉しかった。死ぬ直前まで僕と居たいんだよね?やっぱり君は僕に依存しているんだよね?泣きじゃくる君のか細い身体を抱きしめながら、僕は いいよ と囁いた。


ビルの屋上で、君と最後の会話をした。君は笑いながら、ありがとうって僕に言うから、こちらこそって返した。何気ない会話。でも、中身の空っぽな会話なんてしたことなかったな。いつも僕と会う時の君は、誰かに傷つけられていて、僕はそんな君を黙って抱きしめた。君と普通に出会えていたなら。たわいもない会話ができていたなら。君と屋上から飛び降りるなんてことはしなかっただろう。涙と笑いがこみ上げてきた。そんな僕を見て君は、もうそろそろだと言う。僕も覚悟を決めた。ネットを跨いで、2人で手を繋いだ。君は大きく息を吸うと、一気に笑った。これでやっと死ぬことができる、と。僕はなんだか不思議に思って、彼女の顔を見た。今までに見たことないくらいの眩しい笑顔。そんな顔で君が僕に言うんだ。


『生きる意味がやっと消えてくれる。』ってね。


僕はその後の記憶はない。ただ、あのビルから見た自分の住んでた街が、君の住んでた街が、汚くて醜かったことだけは、確かに残ってるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る