第10話

僕はこの日、彼女にあるお願いをした。

『写真の、モデルになってくれませんか?』

彼女はひどくびっくりしていた。

『君じゃないよ?私は。』

そうだ。僕は『僕』を撮ってきたのだ。今までは。

それは『父』を演じてきたに過ぎない。僕は彼女と出会って、彼女が新しい表情を見せるたびに思っていた。いつかこの人を撮ろう、って。

僕は『僕』とはおさらばする。『父』をきちんと思い出にする。僕は僕で、僕が撮りたい人を撮るのだ。

彼女に想いを伝えた。

僕は君が好きだと。君をこれからずっと撮っていきたいと。

彼女はぽろぽろと涙を零しながら、頷いてくれた。何度も何度も。


この日から撮影の日々がスタートした。


彼女の表情はもう数え切れないほどで、僕が指示をしなくても彼女はいい感じでモデルをしてくれる。ありのままでいてくれる。まるで経験があるかのように。でも本人によると、とても緊張しているだとか。

毎週水曜日は僕の家で、金曜日は彼女の家で夜ご飯を食べた。水曜日は僕が作り、金曜日は君が作る。

僕はカレーライスしか作れなかったが、彼女は僕の作るカレーライスがこの世で1番美味しいとまで言ってくれた。メニューを変えたら怒られもした。僕がヤキモチを妬くくらい、彼女は僕のカレーライスが好きだった。

逆に僕は、彼女の作るオムライスがとても好きだった。卵のとろとろ加減がとてもいい感じで、甘さもちょうどよかった。彼女は僕の美味しそうに食べる姿がとても好きだって言ってくれた。

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