第9話 夏休みの物語
「こらぁっ!!友明っ!」
「げっ!とーちゃんだ、逃げるぞ!」
「ま、待って!」
怖い顔をした友明のお父さんがこちらに向かってくる。
「あっ!か、鞄が」
掛けていた鞄のヒモが操縦席に引っ掛かり、身動きがとれずにもたついていると、後ろにいた良太がスッと手を伸ばして外してくれた。
「ほら、亜子ちゃん。取れたよ」
「ごめん、ありがとう」
先に船から飛び出していた友明が「早く!」とドアの向こうから急かしてきた。
「ともあきーーー」
「と、とーちゃん」
「勝手に船に乗るなって言っただろう!」
おじさんが鬼のような顔と迫力で友明を睨み付けた。
「ほ、ほら。俺、将来は漁師になるしさ。みんなに漁師のかっこよさを・・・」
罰として私たちは、おじさんの船の掃除をさせられることとなった。
私が神隠しにあい、見つかってからは島の子供達と打ち解ける事ができた。
というよりも、友明が半ば強引に遊ぶ約束をしてきたり、家にまで押し掛け、朝っぱらからうちでおにぎりを食べていることもあるのだ。
そうしているうちに、おじいちゃんの畑の手伝いを皆とするようにもなっていた。
ラジオ体操をして
海に潜ったり、釣りをしたり。
駄菓子屋でホームランバーを食べ、タケちゃんに小言を言われたり。
蝉やカブトムシなど、虫を追いかけ捕まえて
昼には縁側の風鈴の音に耳を傾けながら、スイカを食べる。
ザリガニを釣り、また野山を駆け回った。
仲良くなってからの夏休みは毎日が輝いて、
空も、浮かぶ入道雲も眩しいほど美しく見えた。
あれ以来、すっかり私はコロコロを見かけることが無くなっていた。
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