第73話 牽制



 その日の夜。

 テオとヘルヴィが、二回戦ほど終えて落ち着いた頃。


 同じ枕を使い、顔と顔の距離は少し動かせばすぐにキスが出来る距離。


 前なら二人とも恥ずかしくて、すぐに顔を逸らしてしまうような近さだ。


 しかし今はその距離で、お互いに目を見ながら会話が出来る。


「えっ……ぼ、僕が強くなった理由って……」


 テオが強くなった理由は、ヘルヴィと今さっきやっていた行為が原因だと話した。


 近づいてもあまり赤くならなかった顔が、今は違う恥ずかしさで赤くなっている。


「ああ、あの時は言えなかったがな」

「うぅ、あの二人には、こんなこと言えないですね……恥ずかしくて」


 テオは話せないと言ったが、ヘルヴィはもうすでに話してしまっていた。

 しかもテオよりも前に。


(……すまない、テオ。少し自慢したくてな。それと、牽制も兼ねて)


 あの二人がテオのことを好きなのは明らか。

 弟のように感じてるのも確かだが、男として狙っているのも確実。


 ヘルヴィとしてはあの二人は好ましいと思っているが、テオを奪おうとするのであれば話は別だ。


 殺しはしないが、徹底的に潰す。


 ヘルヴィから見ていると、テオはガードが緩い。


 色んな女性に対して優しく、可愛い笑顔で接する。

 そこがテオの良いところでもあるのだが、ヘルヴィが不安に思うところでもある。


 ジーナとセリアはもちろん、フィオレ、ギルドの受付嬢たちはみんなテオの虜だ。


 フィオレ以外の受付嬢たちはテオのことを癒しとして認識していて、特に狙っては来ない。

 だがフィオレは油断ならない。


 テオもフィオレのことは姉のように慕っているので、特にガードが緩くなる。


 だからヘルヴィもテオが自分のもの、と周りに示すのに少し必死になるのだ。


「だけど、ヘルヴィさんと、その、する度に強くなるんですね……」

「ん? ああ、そうだな。本当に少しずつだから、あまり実感はないかもしれないが」


 今日のテオの動きは、熟練のジーナやセリアだから気づけたような成長だ。

 実際、テオは言われるまでは全く気づかなかった。


 テオの身体が抱えられる魔力量は、今はせいぜいコップ一杯か二杯程度。

 今回成長したとわかったのは、今まではそのコップに魔力が入っていなかったが、ヘルヴィとやることによって溢れ出すぐらいに入ったからだ。


 これからはそのコップがどんどん大きくなっていき魔力量も増えていくが、毎日毎日実感できるものではないだろう。


「あの、ヘルヴィさん……」

「どうした?」


 テオは少し恥ずかしそうに顔を赤く染め、上目遣いでヘルヴィの目を見つめる。

 何回もやられた行為だが、ヘルヴィはいまだにドキッとしてしまう。


 恥ずかしそうにしているので、テオの下を軽く触るとまた臨戦体勢になっていた。


「あっ……!」

「ふふっ、もう一回するか?」


 ヘルヴィは体力は文字通り無尽蔵なので、何回戦でもいける。

 なのでまたし始める……と思いきや、テオが話を続ける。


「し、したいですけど……その、ヘルヴィさんとしたいのは、強くなるためじゃなくて、僕が……ヘルヴィさんと、したいからで……」

「なっ……!」


 テオはヘルヴィに、勘違いしないで欲しかった。


 ヘルヴィとする度に強くなるというのは、確かに魅力的である。


 だがテオはそんな副次的なものがなくても、ヘルヴィとしたいし、これからずっとしていきたい。

 それを伝えたのだが、恥ずかしくてどもりながら目も逸らしてしまう。


 冷静に考えると、いや、冷静に考えなくてもすごい恥ずかしいことを言ってしまった。


 少し引かれても仕方ないような……と、テオは思ったが。


 横に寝転がっていたはずのヘルヴィが、いつの間にか自分の上に覆いかぶさっていた。


 驚きながらも見上げたヘルヴィの顔は、とても妖艶な笑みでテオの心を鷲掴みにする。


「ヘルヴィ、さん……」

「ふふっ、テオ……嬉しいぞ、テオ……」


 二人とも裸のままなので、直接肌が触れ合い、そしてヘルヴィは上から唇へキスを落とす。


「んっ……私も、テオとしたい。だから何も考えず……」

「はい……ありがとう、ござい……んんっ……!」


 お礼を言う途中で、二人はまたキスをし合い――。



 その後、盛り上がったのかいつもよりも少し多くしてしまった二人。


「テオ、今日は訓練で疲れただろう? 大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。ヘルヴィさんにマッサージもしてもらいましたし」


 ジーナとセリアと一緒に夕食を食べ終わった後、二人が帰ってからマッサージをしてもらった。

 なので今日の訓練の疲れはほとんど残っていない。


「だけど最近やっぱり、寝るのが遅くなって少し寝不足なのが……」

「むっ、そうか……すまないな」


 疲れなどはないが、やはりヘルヴィと毎日夜遅くまでするので、寝る時間は少なくなる。


「い、いえ、その……僕も、したいので」

「テオ……ふふっ、また誘っているのか?」

「そ、そういうわけでは! それに、さすがに少し眠いです……」

「そうだな、そろそろ寝るか。おやすみ、テオ」

「はい、おやすみなさい」


 最後に一度軽く唇を合わせ、そのまま同じベッドで眠る。


 全く後悔はないが、テオはこれからも寝不足になることは間違いなかった。

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