第2話 不穏
私は混乱した。
突然「お前は何故生きている」と言われても答えれる訳がない。
それに今はそんな禅問答に付き合ってあげる気分じゃないんで無視しようとした。
すると『男』は
「お前は俺が殺したはずだ」って言った。
私はその時「ゾッ」とした。
先週そこの横断歩道歩道で若いOLさんがナイフで刺されて殺された。
マスターにも
「夜はひとりで出歩かないように」って言われてた。
私の目から溜まっていた涙が落ちる。
それを見て『男』は更に不気味な笑顔を浮かべ、懐に手を入れようとした時
「明日香さん、どうしました?」と後から声がした。
私が振り返って
「あっ、刑事さん」と私が言うと『男』の動きが止まり武田刑事を見た。
武田刑事も鋭い眼光で『男』を睨んだ。
『男』は「チッ」と舌打ちして去って行った。
「何です、あの男は?」と武田刑事は聞いた。
「わからないです。突然『何故お前は生きている。お前は俺が殺したはずだ』って言われて」
「それは尋常じゃないですな。先週ここで殺人事件があったのはご存じでしょう。気をつけてください、明日香さん」
「はい、マスターにも言われてます」
武田刑事は私の顔を覗き込んで
「おや、泣いてるんですか? 明日香さんでも泣く事があるんですね」と失礼な事を言う。
「刑事さん」と私は睨んでやった。
武田刑事は目をそらして
「そう言えばマスターのマンションはすぐそこでしたね」と話を変えた。
「物騒ですから送っていきましよう」と武田刑事が言うので甘える事にした。
じゃないと私ひとりでは帰れなかったと思うから。
ドアが開いた時、マスターは複雑な顔をして出迎えた。
私と武田刑事が一緒にいたからだ。
「刑事さん、今日は何ですか?」とマスターは苦笑いしながら言った。
「実はすぐそこで偶然明日香さんに会いましてね。男に絡まれていたみたいなんで送って来ました。最近物騒ですからね」
「ああ、それはどうも・・・明日香は美人だから」
「それがですね、その男が『お前は何故生きている。俺が殺したはずだ』って言ったらしいんですよ」
それを聞いた瞬間マスターの目付きが鋭くなった。
顎を擦りながら何か考えている。
考える時のマスターの癖だ。
マスターが
「刑事さん、その男の顔覚えてますか?」と聞くと
「ええ、私も職業柄、怪しい人物は覚えておくようにしてますから」
「明日香は?」
「あんな気持ちの悪い顔は早く忘れたいけど忘れられそうにないよ。夢に出て来そう」って言った。
マスターが
「刑事さん、似顔絵を作って貰えませんか?」と頼んだ。
それを聞いて武田刑事の目付きも変わった。
マスターの車で三人は警察署に向かった。
警察署内で似顔絵担当? の婦警さんから色々聞かれた。
婦警さんは優しく聞いてくれる。
出来上がった似顔絵はあの『男』に驚く程似ていた。
さすがだ。
武田刑事も別の婦警さんに似顔絵を書いてもらってたみたいで、2つの絵はタッチは違うけど全く同じ『男』を描いていた。
マスターは武田刑事としばらく何やら話しこんでたけど私には内緒みたい。
マスターはその二枚の絵をコピーしてもらい、私を連れてマンションに帰って来た。
マンションの部屋に入ると
「明日香、当分俺から離れるな。俺が一緒じゃないと外出はするな」って言ってくれたんだ。
私は嬉しくって
「うん」って言ってマスターの腕にしがみついた。
マスターは
「ちょっと引っ付きすぎ」って言ったけど
私は
「だって離れるなって言ったじゃん」って言ってやった。
これから恐ろしい事件が起ころうとしてるのも知らないで、その時の私は浮かれていた。
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