第7話
取り締まりが厳しくなった。闇営業のラーメン屋が次々摘発されていった。摘発された店は没収され国庫にはいった。後にうどんか蕎麦の店に払い下げになる。
街に活気がなくなってゆく。いや、落ち着くと言うべきか。
国会前のデモは排除された。
人々はラーメンのない生活に慣れ始めていた。消費税があがり、ラーメンの市場規模ほどのカネが国に吸い上げられた。そんなことを気にするものは少なかった。
経済は冷えた。そんなことも慣れっ子になっていた。この国の経済はもう何十年も冷えつづけ凍りついているといってよかった。
富めるものはますます富み、それ以外のものは貧しくなっていった。
すべてはラーメンであった。
ラーメンを忘れ、自由を忘れ、生きることを忘れかけていた。
街から一般市民が消え、今ではラーメン取締官ばかりが目に付く。街を乗っ取られたようなものだ。
人々は都会から地元へUターンした。ラーメンのない都会に魅力はない。都会に本店を置く企業は従業員が集まらず解散した。
ラーメン禁止法が施行して三年経った。
人のいない都会は一気に朽ち、廃墟となった。わずかな都会出身者だけが地上をゾンビのようにさまよう。そして、うどんか蕎麦を食う。
地下ではまったく異なる世界が展開していた。
秘密結社施設内。
射撃場で銃の腕を磨くものがいる。トレーニング室で体を鍛えるもの、作戦室で議論、コンピュータ上でシミュレーションするもの、法律案を磨くもの、経済政策を練るもの。
十万にものぼる人間が各地の地下拠点に散らばりつつ、それぞれに来たるべき新国家誕生のときを見据え準備に励んでいる。その成就の日は近い。そう信じている。
秘密結社メンバーの士気は高い。それには別の理由もある。
「おい、そろそろ時間だぞ」
声を掛け合い、食堂へ向かう。待っていたのは、湯気、匂い、みんなの期待。
長大なカウンターにドンブリが並ぶ。壮観である。
争ってドンブリをもちテーブルへ。ラーメンをすする。
「さすがに毎日三食ラーメンは飽きるかと思ったけど、味がかわれば別の食事だな」
「お前、ラーメン好きすぎだろ」
「ラーメン好きすぎないやつなんてここにはいねえよ」
「まあな」
秘密結社では、毎食ラーメンが出される。地上を追放されたラーメン屋たちが集まっていて、それぞれ調理する。味と具材のバラエティーは豊富だ。
ラーメンがほとんど絶滅したといっていい地上とはちがいすぎる。
ラーメン教の天国は地下にあった。
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