第5話

 全麺協と全麺連の合同全国大会、昼休み。全麺協会長の筧は全麺連会長の森本とテーブルで向かい合っている。

「ラーメン禁止法が施行されて、そっちはどうだね」

 筧はチョコのそばをすすりながら目をあげた。森本はセイロに盛られたうどんをつまみ挙げているところだ。

「ふぉんふぁふぁ、ごっくん。順調だ。すべてが順調だ」

「だろうねえ」

 悪そうな笑顔を筧に向けてくる。普段は育ちのよさそうな、まるくてつやつやした印象の男。腹も手足も丸い。削っていない鰹節のような筧とは、タイプがかなりちがう。

「国民の皆さんには感謝してもらってもいいくらいだ。ラーメンなんてあんな油っこくて塩分たっぷりで体に悪い食べ物。自殺行為だろ」

 筧も自分が笑んでいるのに気づいて、頬を手でもみほぐした。

「ザル蕎麦って言っても、天婦羅つけちゃったら油いっぱいだけども」

「なにいってやがる、自分だって鴨汁じゃねえか」

 森本は、表面にたっぷり脂の浮いた鴨汁につけて旨味を吸った麺をかきこんだ。噛みしめ飲みくだす。

「まあまあ。どちらも、ラーメンよりマシですよ」

 トクホのお茶をすすめられるも、筧は黙ってそば茶をすすった。

「今度は廃業したラーメン屋の空き店舗の問題がある」

「そう。そうです。そうです」

 ふたりの声は互いにしか聞こえないくらい小さくなった。

「特にラーメン激戦区なんて言われていたところは、利用しなかったら社会的損失でしょうねえ。早くなんとかしなければなりません」

「全麺連さんと協力してね」

「そうですとも。牛丼、ハンバーガーなんかのチェーンに気をつけなければいけません。せっかくの油揚げだもの」

 食後、筧はそば湯を、森本はトクホのお茶を飲む。

「ちょっと小耳にはさんだんだけども」

「なんだ、儲け話か」

 筧は身を乗り出す。

「ちょっと違うかなあ。闇営業の話ですよ」

「ラーメンか」

「もちろん。あるクラブのVIPルームでね。ラーメンをひそかにすすっているネズミが、おるらしいんだなあ」

 ため息混じり。壁一面のガラスの向こう、オフィスビルが立ち並ぶ景色を森本は眺める。冬は空気が澄み、ビルの隙間に雪をかぶった富士山が見えることがある。今は白く濁ったブルーで塗りつぶされている。

「そういう話か。想定内だ。大丈夫、ネズミが湧いたら退治すればいいんだ。業者に頼んであるから、安心しろ」

「そろそろ、午後の会合の時間かなあ。いきますか」

 ふたりは同時にイスを引き、のっそのっそとすたすた歩いて食堂からそれぞれの会場であるホールへ向かった。

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