未だ来ぬ過去

赤佐タナ

分別

暗い部屋の中、PCの前に座る俺はひどく疲れた顔をしていた。多分してる。わかんないよ。自分の顔なんて見えないし。


頭がひどくくらくらする。最悪の気分。文を書くような気分じゃない。同意。書いてる場合じゃないってのもある。人は追い込まれると逃避したくなるもんだ。逃げだ。これは逃げだ。わかるよ。言わなくたっていい。俺はやるべきことをすべきだ。


僕はPCの前から立ち上がると余っていたコーヒーを一気に飲み干した。底にこびりついた茶色が目に入る。刹那。僕の目の前からカップは消え、遠くで何かが割れる音がした。俺は何をしているんだ。箒とちりとりを押し入れから引っ張り出し台所へ向かう。ここは賃貸だし床に傷はつけたくないな。有り余ったカップの破片を燃えるゴミに叩きつける。どうやら俺は分別が苦手らしい。


「雨が降っている」

締め切った窓を見てそう呟く。当然のように雨の音なんか聞こえないしこの世の中は糞だと思う。無駄な思考と行動にリソースが割かれていく。非効率だ。目覚まし時計の針はもうない。最悪の気分。どうやら俺はもう必要ないらしい。考えることをやめ、体から思考が離れていく。バームクーヘンを外側から剥がすように。つまりはそう上手くはいかないってことだ。

「儘ならないな」

そう呟いて俺はゴミ箱に入った。明日の朝にはきっと消えてるだろ。そうであればいいと願うのは僕だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る