なにもかも が ておくれ だった。

長月瓦礫

なにもかも が ておくれ だった。


 部屋が薄暗い。太陽はまだ昇っていない。いや、雨が屋根を打っている音が聞こえる。昨日から降り続けている雨はまだ止まないようだ。何となく、眼を開いてみてからどれくらい経ったのだろう。当然開いたところで、何も変わりはしない。


世界がまた、始まるだけだ。

枕元の時計を見ると、まだアラームの鳴る時間ではなかった。今日は珍しく目覚まし時計よりも早く、眼が覚めたらしい。眠れなかったのもある。


未だに心のどこかに解決しきれないもやもやが残っているのも、ある。

もしかしたら、雨の音で目が覚めたのかもしれない。

ぱらぱらと、天井を打っている。数分、ぼーっとしているとアラームが鳴り響いた。


それを止めつつ、起きあがった。それと同時に携帯にメールが送られていたのに気付いた。受信ボックスを開くと、『今日はいい天気だね』と謎のメッセージがあった。送り主は彼からだった。


何度もかけた電話にすら出ない彼が何故?


不思議に思いながら、ベッドを出た。ゆっくりと出かける準備をする。

今日着る服も、持っていく物もあらかじめ用意した。起きてから渋々用意するより

昨日の夜のうちに済ませてしまった方がいいと思ったからだ。


さて、メールから判断するに、どうやらあちらは晴れているらしい。それに対してこちらは朝から雨が降っている。けれど、朝から気分がどんよりしているのは雨が降っているから、それだけではないはずだ。何て返信しようかなと考えた。


しかし、よく考えてみれば、返す意味もない。結局、そのままメールを無視した。全て準備し終わって、家を出ると冷たい雨が世界を濡らしていた。恐らく、向こうは晴れているのだろう。少なくともこの気分を晴らしてくれるくらいには。


気持ちのいい青空が広がっているかもしれない。そんな淡い期待を胸に抱く。

晴れているなら、傘は邪魔になるかな。そんな風に思っていたけれど。

「……今日は雨の日。いい天気……なのか?」

思わずこう呟いてしまった。目的地から最寄りの駅の改札を出て、空を見上げた。


空はどんよりと灰色に染まっていた。空からしとしとと、冷たい雨が降っていた。

何だか、泣いているように見えた。まるで悲しんでいるようだ。


何に対して?


それは分からないけれど。道行く人々が傘をさして、歩いている。

笑い合っていたり、うつむいていたり、表情は様々だ。

確か、これからさらに冷え込み、雪が降るかもしれないと、行く前に見た天気予報が言っていたことを思い出す。


なるほど、雪ならば子供は喜ぶかもしれない。雪が降るのが嬉しくて、メールを送った。それならば、まだ分かる。

だが、彼らに子供はいなかったはずだ。


仮にいたとしても、一体いつから?


いくら疎遠状態とはいえ親戚なのだから、そんな情報は遅かれ早かれ知れ渡ってしまうはずなのに。そんな情報は一切入って来なかった。

というより、そんな状況ですらなかったはずだ。


彼らは、あそこはもう元に戻せないほど壊れている。

仮にどれだけ直そうと努力しようとも、どんな人間が修正しようと、神が手を差し伸べても、手遅れだ。

いや、手遅れなんてレベルじゃないくらいに、もう終わっている。崩壊している。

バラバラだ。


 だがしかし、今朝のメールから何かが変わり始めている。

どこかで流れが変わった、とでも言うのだろうか。自分の知らないところで何かが起こった。


そういえば、今日は家を出た時から、いや、眼が覚めた時からだ。何となく胸騒ぎがしていた。駅に向かう時も、電車を待っている時も、乗っている時も。

そして、今も。ざわついた感じが離れない。

嫌な予感はぬぐえず、増すばかりだった。行ってはダメだ。と誰かが伝えている。

直感的に、訴えている。これ以上、進むな。と。


彼らに何があったのか、知らない。これまで何一つ連絡はなかった。正月に届く年賀状だけが唯一、彼らとの繋がり。

だから、今日の呼び出し自体に違和感を覚えていた。


惰性で送っていた年賀状にも返さなかった彼らが、今更、何故。連絡を?


その理由を聞こうと何度も電話をかけた。しかし何度かけても、出ない。

自分だと分かって出ないのか、たまたま運が悪かっただけなのか。分からない。


「とにかく、行ってみるしかない……」


ふるふると頭を振った。今は前に進むしかない。それしか、真実を掴めない。

傘を開いて、商店街を歩き始める。

自分の嫌な予感とは裏腹に、人々はいつもと変わらない平和な日常を送っていた。


しばらく歩いてから、また携帯が震えた。受信ボックスにメールがまた届いていた。送り主は彼からだった。


『今どの辺ですか?』


一体誰が送っているのだろうか。

向こうが待ち遠しい訳でもないのは、分かっている。

そんなに楽しみにしているようには思えない。だから、彼が送るとは思えない。


当然、彼女でもない。彼女は使えなかったはずだ。

自分は機械に弱いということを言っていた気がする。

使い方を覚えたというのであれば、話は別だが。


もしくは、自分の知らない第三者の存在があるのだろうか。そう考えれば腑に落ちるものがある。先程のメールも、連絡をくれたのもその誰かならば納得できる。

最も、その誰かの人物像は全くもって思い浮かばない。目的も分からない。


とりあえず、『あと数分でそちらに着く』とだけ返した。

それから、メールは来なかった。マンションの入り口から階段で上る。

重い足を引きずりながら、一段一段昇る。


 部屋の前について、ざわめきはピークに達していた。

本当なら、今すぐにでもここから逃げ出したい。ここから逃げて、自分の部屋に閉じこもりたい。


ここから、早く。急いで。辺りを取り巻く環境から消えてしまいたいとすら、思う。


しかし、ここまで来ておいて帰るのもどうかと思った。

だから、深呼吸をして、インターホンを鳴らした。反応はない。


『ピンポン』という音が響く。

何となく、察してしまった。もう押しても意味がないことに。

何度鳴らしても、誰も出てきやしないことが。

ただ、家を空っぽにしているのではなく、存在そのものがないことを。


それでも連続で鳴らした。どこかで誰かが出てくることを望んでいた。

だが、何度押しても空しく何度も響き渡る。

『ピンポン』という機械音を十数回も聞いた。


結局、諦めた。最終手段である鍵を取り出して扉を開けた。


「っ……何だこれ!」


開けた瞬間、異臭が鼻をついた。慌てて鼻と口を塞ぐ。言葉に表せない。

何日も溜めていたゴミの臭い。

いろんな物が混ざりすぎていて、混沌として、おかしいことになっている。

おかしなものが充満している。


更に、明らかに別の空気が混ざっている。廊下の先の扉が少しだけ開いている。

そこから漏れているらしい。何の臭いか、一瞬で理解してしまった。

分かりたくないのに、分かってしまった。


とにかく冷静になるように自分に言い聞かせる。息が荒いのが分かる。

心臓がバクバク言ってうるさい。声に出さずに、とにかく状況を整理する。


『殺された。彼らは。誰かの手によって』


誰だ? 


心当たりが多すぎて分からない。ただ、犯人に向けて言いたかった。


わざわざ、今日殺しに来なくたっていいだろ! 何でよりによって今日なんだ! 


 最悪だ。家中にあると思われるゴミ袋の臭いと、血の匂い。

パニックになりそうなのを必死でこらえる。

玄関で立ち尽くしていると、誰かが奥から出てきた。


確か、あの部屋はリビングだったはずだ。何十回も鳴らせば、流石に気付かれる。

一回鳴らした時点で、帰ればよかったのだ。結局、誰もいないのかって。

諦めて帰ればよかったんだ。


奥から出てきた少年は何も言わずに、こちらを見ている。

真赤に染まった白いシャツ。まだ幼さが残っている表情。

中学生くらいだろうか。手には明らかに裁縫に使うものではない針。


その先端が血で濡れている。その手も、赤く染まっていた。

それらが全てを物語っている。犯人なのは言うまでもない。


逃げなければ、殺される。分かっているのに、動けない。

少年の虚ろな眼がじっと見ている。あの目に射抜かれた訳でもないのに。


彼は自分の手元と、こちらをゆっくりと交互に見た。

真赤に染まった針を見て、自分のしでかしたことに気付いたようだ。

顔が強張り、眼を見開いた。からんと音を立て、手からこぼれおちた。


それを慌ててすぐに拾い上げた。アイスピック。先端が赤い。

氷を壊すはずの物が、人を壊した。彼は頭を抱え、叫び始めた。


「何で……何でっ! 僕はそこまで望んじゃいなかったのに!」


「……?」


「何でそこまでするんだよ! 何でだよ! 答えろよ!」


「しょうがねえだろ!」と少年を荒げた。まるで別人だった。


まさか、開き直ったのか? 


少年が自分に罪を着せようとしているのかとも思ったが、どうやら違うようだ。

自分に言い聞かせているようだ。


「もう手遅れなんだ! どうにもできない! 

だから、テメエは助けを求めたんだろが!」


「僕を助けて! って、もう誰の手にも負えないって! 目の前の奴にメール送ったんだろが!」


「……そうだけど! だけど、そこまでする必要は……!」


「ちょっと!」


ばっとこちらを見た。


「えっと……糸宮栞というのですが……」


助け? メール? どういうことだ。

何があった、何が起こった。彼は誰だ。


声を絞り出すように、少しずつ、俺は喋り始めた。


「この前、ここに住んでいる親戚から『話がある』って連絡を貰ったので、来たんですけれど……」


「あの二人は……僕が……」


「……君は?」


「えっと……」


少年はその場にうずくまった。しばらくの間、何やらぶつぶつと呟いていた。

話しかけても、恐らく無駄だ。きっと声は届かない。

少年を置いて、廊下をまっすぐ進んだ。念の為、事実を確認するために。


「……!」


扉を開けた瞬間、もっと酷い状況が広がっていた。臭いもさらにきつい。

あやうくさっき食べた朝食をぶちまけそうになった。

喉元まできたそれを何とか、腹の中に戻す。


ちゃんと向き合った。眼をそらしてはいけない。

部屋の中央に重なり合うようにして、二人が倒れていた。

何もかもが赤く染まっていた。


彼らの血で全て真赤だ。

下になって倒れている彼女と、庇うようにして彼女の上に乗っている彼。

不思議なことにすがっているように見えた。


お互いに表情は見えない。彼の背中に刺されたような跡が見える。

そこから血が流れている。彼女にも同じ傷があるはずだ。

きっと、あの針でやられたのだろう。


数か所に傷があるのは、一回刺してもダメだったから。死ななかったから。


「ああああああああああああああああああ……」


何か言おうとしても、言葉が言葉にならない。


この状況をどう表現しろと? 

馬鹿じゃないのか?


無理。駄目。頭が回らない。

いや、待て。落ちつけ。パニックになるな。

いろんな言葉が頭の中を飛び交う。矛盾しているのは分かっている。


「……すみません。終わりました」


振り返ると、少年がドアの前に立っていた。

少年の言葉の意味が、さっきの訳のわからない呟きが終わったことを理解するのに数コンマかかった。


「一応、あの二人の息子です。連絡をしたのも、僕です」


「……そう」


「何て言うか、周り見てもらえれば分かるでしょうけれど……」


少年は両手を広げた。彼の手には何もない。あの危険な針も持っていない。

言われて静かに周りを見た。後ろのドアは閉まっている。

そういえば、何で誰も来ない。


あれだけ騒げば、誰か来てもおかしくないはずなのに。

あの状況を見れば罪を着せられても、おかしくないのに。


まさか近所全体が見て見ぬふりをしているのか。

町、というには大げさかもしれないけれど。


見放されていたのか。彼らは。

見殺されたのか。あの二人は。


馬鹿じゃないのか。だが、それ以上に理不尽すぎる。


何をしたのか知らない自分が言うのはどうかと思うけれど。


「それで、君は何で、連絡を?」


何とかして言葉を紡ぐ。もう限界だった。冷静になんて、なれるはずがない。

もう無理だ。終わっているところを見るのも、こんな世界も。

もうたくさんだ。早く、帰りたい。


「助けてほしかったから……です」


「……素直に手紙でも、出せばいいだろ。こっちは律儀に、年賀状出してんだから」


「年賀状は全て捨てられていました。

ですが、メールアドレスはパソコンに入っていたので、この前送ったんです。

本当に来てくれるとは、思いませんでした。

ちなみに今朝のメールに意味なんてないです。

無視されて、ちょっと不安でしたけど。二通目で返ってきたので……」


「どうして、ここまでする必要があった?」


「僕もそこまで望んじゃいなかったんです。

ただ、あの二人を止めてくれればよかったのに。

アイツは容赦ないんです。基本的に」


「アイツ?」


「……僕の話、聞いてくれますよね?」


アイツ。さっきも言っていた。誰のことだ? 

ここには、二人しかいない。少年と、自分と。

彼はとつとつと、語り始めた。全てが終わる、その始まりを。


 今思うとあの時からいた。彼は。名前のないアイツは。

ずっと前から、僕の中にいた。名前はないけれど、確かにいたんだ。


初めて出会ったのは、ある晴れた日のこと。

確か、ママと散歩に行った時だったかな。

それで、ちょっと用事あるからって言って、どこかへ行ってしまった。


あの時の僕は戻ってくると信じて待っていた。

空がオレンジに染まって、太陽がいなくなる。

空が黒くなって、月が出てくる。周りの人が帰っていく。


でも、来ないんだ。いつまで経っても。どれだけ待っても。来ない。

先に帰ったなんて、思わなかった。思いたくなかった。

もちろん、帰り道なんて分からない。帰りたくても帰れない。


だから、話をしたんだ。彼と。

名前とか、好きな食べ物とか、いろんなことを聞いた。

あの瞬間、きっと僕の中にいた『何か』は『アイツ』になったんだと思う。


あの後は何の疑問も持たずに、帰った。いや。違う。

正確に言えば、切り替わったんだ。『アイツ』と。

『アイツ』が一緒にいたから、帰っただけなのに。


ドアを開けた時の二人の顔は忘れられない。二人とも、黙って、僕を見て。

眼を見開いて。けれど、駆け寄るようなことはしなかった。

何で帰ってきたの、とも言わなかった。


ただ、驚いていた。無言だった。

あの時は、そのまま何も言われず、されずに終わった。

あれから、そんなことが数回続いた。


ママが僕を連れて、置いて行った。けれど、必ず帰ってくる。

そんな僕を見て。薄ら笑み浮かべ、華奢な肩を揺らしながら、少し首かしげて。

低く声を漏らした。


『……』


聞こえている。でも、何を言っているの? ちゃんと話してよ。

何を言っているか、まるで分からない。

だから、あえて無視していた。知らないふりをしていた。


だから、ある日、聞かれたんだ。珍しく、外にも出かけないから。何かと思った。


『何で帰ってくるの? ここにいても、意味がないのは分かっているでしょ。

傷が増えるだけ。大切にされない。なのに、何で帰ってくるの? 

誰が貴方を連れて帰ってくるの?』


「アイツがね、一緒に帰ってくれるんだよ」


『アイツ……誰? 友達?』


「違うよ! ここにいるんだよ!」


『……ここには私と、貴方と、パパしかいないじゃない』


「……でも」


『やめてよ。気持ち悪い』


「ごめんなさい……」


そんなことを何度も繰り返した。何度も言い聞かせるように、ママは言った。

『アイツ』なんていないって。気持ち悪いからやめてって。


ちゃんといるのに。何で分からないの?

『アイツ』が悲しんでいる。ちゃんと謝ってほしいのに。

だから、一度だけ『アイツ』と変わってみたんだ。

そうしたら、分かってくれると思ったから。


「ねえ、ママ。僕が彼の言う『アイツ』だよ」


『?』


「あのさ、何でいつも置いて行くの? かわいそうだよ」


『……貴方は何を言っているの?』


「え?」


『ふざけたこをは言わないで、気持ち悪い』


その一言がきっかけで、ママは僕を相手にしなくなった。

『アイツ』は何も言わなくなった。

あの人に関しては、僕を見ることすらなくなった。


何度も、無視された。気持ち悪がられて、叩かれた。


『怨まないで。全部アンタが悪いんだから』


どっちかが言っていたようにも思えるし、片方しか言っていている様な気もする。

何度も。何度も。叩かれて、傷が増えて、体中が痛かったこともあった。

血が止まらなかった。


でも、結局、僕と『アイツ』を見てくれなかった。

気がついたら、ずっと部屋の隅で座っていた。


自分の部屋に閉じこもって。世界を拒否していた。

世界に絶望していた。朝なんて来なければいいのに、って。

明日なんて来なければいいのに。そして、全てが嫌になった。


『もうどうにもできない』


『まずは一人、もうあと一人』


『これで、全てがもう終わり』


この前、『アイツ』に言われたんだ。

祈りなんて、懺悔なんて、容赦なんていらない。


『全てを終わらせよう』って。


不思議なことに戸惑うことなんてなかった。一度決めたら、もう止まらなかった。

あの二人を殺す場面を何度も繰り返した。どんな風に殺そうか。ずっと考えていた。あの大きな針はたまたま見つけた。


名前は知らないけれど、何に使うか知らないけれど、隠しやすかったから、盗った。きっと、盗られたことにも気がついていないと思う。


それから、年賀状で貴方の存在を知った。


確か連絡した理由は、貴方がそういう人だったから。

年賀状に書いてあることは、いまいちよく分からなかった。

だけど、助けてくれるっていう、確信があった。


でも、ただ助けてって言ったら、あの二人に気付かれるって思った。

こっそり隠れて、連絡をした。それで、返ってきた時は本当に嬉しかった。

だから、後は殺すのをじっと待つだけだった。


 最初にママを殺した。何か言っていたけれど、分からなかった。

何か叫んでいたけど、分からない。知らない。

黙らせるためにあの針を何度も刺した。


気がついたら、手も、服も、針も、全て赤くなっていた。

それから、あの人がそれに気付いた。

こちらを見ないで彼女の体にうずくまって泣いていた。


まるで自分の中にあった何かが壊れたかのように見えた。

今までまるでなかったかのように振舞っていた。

『知らぬ存ぜぬ』の態度はよく似ていた。


殺したことは言わなかったけれど、殺したことに関しても咎めなかった。

だから、殺した。その背後から。何度も。何度も。刺した。

これで終わると思ったから。


しばらくしてようやく我に返った。

彼の語りが終わったことに気づいたのは、数分経ってからだ。

少年はどこかを見ている。その眼には何が見えているのだろうか。


虚ろな眼は、どこを見ているのだろう。何も見えていないようにも思える。

だが、どうすればいいんだ。確かに、自分はそういう人間だ。


本来なら、助けるべきなのだろう。しかし相談すべき人は、もういない。

本当にいいのか。彼を助けて。彼はあまりにも荷が重すぎる。


彼のしでかしたことが、あまりにも。

だがここで断ったら、彼はどうなる。

ここで断ったら、何をされるか分からない。


もしかしたら、殺される可能性もある。

自暴自棄に陥って自殺。なんてこともありえる。


どうすればいいんだ? 

何をすれば、彼は救われる? 

手を差し伸べればいいのか?


それだけじゃ、駄目なのは分かっている。


『どうすればいい?』


その疑問が頭をぐるぐる回りながら、時ばかりが過ぎていった。



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