2
大学卒業後は、子供服で有名な企業に就職した。もちろん、スポーツクラブに所属して水泳を続けるためだ。
しかし、ここ5年ほどは記録が伸び悩んでいる。年齢も今年で27歳。選手としては、もう若くはない。
「来年のオリンピックへの出場を逃したら引退します」
そう自分の人生の半径10m以内の人達に宣言し、一年間死ぬ気で研究と練習を重ねたが、やはりタイムは伸びなかった。
100m自由形・長水路、50.27秒。
こんなタイムでは日本選手権にエントリーしても、とてもじゃないが世界選手権の代表メンバーになんて選ばれない。
代表メンバーに選ばれて、世界選手権で金メダルを獲得すればオリンピックの出場は確定される。
「そんなに焦らず、選考規定が決まるまで調子を戻すのに専念したらどうだ」
そんなコーチの声もどこ吹く風。飯塚の精神はほとんど臨界点に達していた。
自己ベスト、48.57秒。
この記録が出せれば。あの速さにもう一度自分が乗れさえすれば。
焦れば焦るほどに研究に研究を積み重ね、イルカを目指した青年はいつの間にかに、追い込み漁で身動きができなくなる子クジラのように自由さを失っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます